Netflixシリーズ『ONE PIECE』が実写化大成功となった理由 アメリカで作られた意義を考察

実写版『ONE PIECE』大成功の理由

 同時に、本来は略奪を繰り返す悪党の立場である“海賊団”と、それを取り締まる“海軍”との確執を、それぞれの立場に分けられるルフィとコビー(モーガン・デイヴィス)の対比的な描写、さらには現実の人種間の軋轢を背景にした、差別問題の要素を丁寧に描くことで、正義や倫理性について思考を促す内容になっているところも、アメリカのドラマらしい部分が感じられる。この点については、さまざまな人種や、日本と比べ犯罪発生率が高いアメリカで、本シリーズが作られる意義となっているのではないか。

ONE PIECE

 さて、ここにおける海賊の“倫理性”とは何なのだろうか。体制に反して犯罪に手を染めながらも、“弱気を助け強きをくじく”という精神を尊ぶ者たちは、古くから“義賊”と呼ばれている。ルフィたちがさまざまな場所をめぐりながら、強者の力に潰されようとする弱者に味方する、ある意味でクラシカルといえる趣向というのは、アメリカの小説家によって創造された、義賊の物語『怪傑ゾロ』を想起させるものがある。

 コアな映画好きにとって見逃せないのは、原作者の尾田栄一郎が、1950年代に人気となった映画シリーズ『次郎長三国志』のファンであるということだ。実在の侠客である清水次郎長(しみずのじろちょう)を題材に、村上元三の小説を基にした、マキノ雅弘監督による通俗的な連作は、ヤクザ稼業を義理人情の物語に変換した、講談の精神性や娯楽性が宿っている。この作中の構図こそ、『ONE PIECE』の物語構造に通じるものがある。つまり『ONE PIECE』における倫理性や仲間意識とは本質的に、“任侠”における“義侠心”なのだと考えられる。

 そう考えると、『ONE PIECE』の漫画に多用されている、三味線の効果音が基になっていると思われる「べべんっ!」という擬音は、まさに講談における演奏や、歌舞伎の見せ場を想定したものだと理解することができる。ちなみに、歌舞伎における代表的な義賊のグループといえば、後に日本の“スーパー戦隊もの”の元祖となった『秘密戦隊ゴレンジャー』や、アニメヒーロー『科学忍者隊ガッチャマン』とも重ねることができる、「白浪五人男」が存在する。さらにそのルーツは、中国の三国時代に存在した「白波賊(はくはぞく)」にあり、「任侠」全体の思想ではさらに春秋戦国時代にまで遡ることができる。

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 その意味において、本シリーズでも印象的なエピソードとして表現される、シャンクスやゼフの、肉体を犠牲にしてまでの自己犠牲精神による美談というのは、いかにも東洋的な倫理観によって生み出されているものと考えられるのである。このようなエクストリームとまでいえる、任侠をベースとした正義の精神が、本シリーズで一部西洋的な個人主義や人権の尊重という理念を通して、より現代的な変換を果たしたのは、ある意味で東洋と西洋の思想の合体した結果なのだと考えると、感慨深いものがある。

 本シリーズが漫画、アニメ原作の実写化作品のなかでも、内容や評判、規模の大きさともに稀有な存在となったことは間違いない。そうなると考えられるのは、シリーズの存続だろう。本シリーズがNetflixの評価を高める成功作品となった以上、継続の決断に至る可能性が高いとみられ、複数シーズンによる長大な作品になることや、映画版の企画などもあがってくるかもしれない。

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 何より、日本の漫画作品の海外での実写映像化が活発になる流れが生まれ得ることも考えられる。無地蔵ともいえる日本の漫画作品の数々に熱視線が注がれ、アメリカの映画、ドラマ作品として本格的に製作が動き出せば、新たな映像世界の可能性の扉が開かれることになる。そういった期待をも含めて、『ONE PIECE』という作品には、あらためてたくさんの夢がつまっていることを再認識されられるのだ。

■配信情報
Netflixシリーズ『ONE PIECE』
Netflixにて全世界独占配信中
原作&エグゼクティブ・プロデューサー:尾田栄一郎
脚本&ショーランナー&エグゼクティブ・プロデューサー:マット・オーウェンズ、スティーブン・マエダ
キャスト:イニャキ・ゴドイ(モンキー・D・ルフィ)、新田真剣佑(ロロノア・ゾロ)、エミリー・ラッド(ナミ)、ジェイコブ・ロメロ(ウソップ)、タズ・スカイラー(サンジ)、ヴィンセント・リーガン(ガープ)、モーガン・デイヴィス(コビー)、 ジェフ・ウォード(バギー)、マッキンリー・ベルチャー三世(アーロン)、セレステ・ルーツ(カヤ)、エイダン・スコット(ヘルメッポ)、ラングレー・カークウッド(モーガン)、ピーター・ガジオット(シャンクス)、 マイケル・ドーマン(ゴールド・ロジャー)、イリア・アイソレリス・ポーリーノ(アルビダ)、スティーヴン・ウォード(ミホーク)、アレクサンダー・マニアティス(クラハドール)、クレイグ・フェアブラス(ゼフ)、チオマ・ウメアラ(ノジコ)
©尾田栄一郎/集英社

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