生田絵梨花が“元カノ”だからこそ? 『こっち向いてよ向井くん』のほろ苦いノスタルジー

 “美和子編”とでも呼ぶべきか、向井くんが10年間も引きずりつづけた存在と再会し、寄りを戻したのか戻していないのかすらもなあなあに過ごす時間が描かれていく第5話と第6話を観ていると、結局のところ元カノ(あるいは元カレ)という存在は一種のノスタルジーに過ぎないものだと思わずにはいられない。ノスタルジーといえば聞こえはいいが、里帰りしていいものとすべきではないものがそこには存在していて、ここでは明らかに後者。仮に自分が数年の月日で変わったなり成長したなり思い込んでいても、一気にその時の価値観に半ば強引に引き戻されてしまうものだ。

 第6話のラストで、向井くんは美和子に「俺たち付き合ってるよね?」と問いかけ、美和子は実に複雑な表情を浮かべながら「元カレ」と消え入るような声で答える。過去にあぐらをかいたなあなあな関係の結果であり、そもそもの話、わざわざ確認しなきゃいけない関係であればそれまでなのである。恋愛関係における最大級の愚問であり、開けてはいけないパンドラの箱のようなもの。もっとも、すでに“同じイヤホン”というきっかけとともに2人は一番大きなパンドラの箱を開けているわけだけれど。美和子も素直に向井くんではなく金曜ロードショーを選んでおけばよかったのに。

 なんだかとても気の毒に思えてくるけれど、第4話で気付きを得たところで、元カノ美和子との再会によって向井くんは“ふりだし”に戻ってしまったようにも見える。そういった意味では、これは現実に起こりうるタイプのタイムリープものなのかもしれないと解釈できようか。人生にやり直しがきかないように、仮にその機会を与えられても人はおそらく同じ轍を踏むことになる。それこそ理想というファンタジーにふんわりもたれている者に、現実を突きつけるのだ。

 ちなみにこの美和子のキャスティングに生田絵梨花が配役されたのは絶妙だ。美和子の設定の年齢と比較すればちょっぴり若いのだが、彼女が「何度目の青空か?」で乃木坂46のセンターを飾ったのがもう9年も前のことになる。当時国民的アイドルの中心にいた彼女が、30代前半男性である向井くんのノスタルジーを駆り立てる。メタ構造とまでは言い難いかもしれないが、このドラマを観ている同世代の男性たちに向井くんのノスタルジーを疑似体験させるうえで適任ではないだろうか。

■放送情報
『こっち向いてよ向井くん』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:赤楚衛二、生田絵梨花、岡山天音、藤原さくら、財前直見、森脇健児、内藤秀一郎、上地春奈、岩井拳士朗、若林時英、田辺桃子、久間田琳加、市原隼人、波瑠
原作:ねむようこ『こっち向いてよ向井くん』(祥伝社フィールコミックス)
脚本:渡邉真子
演出:草野翔吾、茂山佳則ほか
音楽:FUKUSHIGE MARI
チーフプロデューサー:三上絵里子
プロデューサー:鈴木将大、柳内久仁子、妙円園洋輝
協力プロデューサー:福井芽衣
制作協力:AX-ON、ダブ
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
©︎ねむようこ/祥伝社フィールコミックス
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/mukaikun/
公式X(旧Twitter):@mukaikun_ntv
公式Instagram:@mukaikun_ntv

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