『君たちはどう生きるか』に散りばめられたジブリ作品の記憶 宮﨑駿の底力を見た

『君たちはどう生きるか』ジブリ作品の記憶

 大粒の涙や流血、水などの液体が、誇張気味な動画でドッと溢れ出るアニメ―ト、ダイナミックな生き物の群れの疾走感はジブリアニメの18番だが、これらを含めて作画マニア的な映像の見どころも多い。他人に話して説明するのが難しい話の筋よりも、本作は圧倒的なアニメーションの魅力だけで観るだけの価値がある。なにしろ作画協力に名を連ねているアニメ会社も超一流揃い。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のスタジオカラー、『攻殻機動隊』シリーズのProduction I.G、『竜とそばかすの姫』のスタジオ地図、『メアリと魔女の花』のスタジオポノック、『鬼滅の刃』のufotable、『すずめの戸締まり』のコミックス・ウェーブ・フィルムなど、日本アニメ界のヒットメーカー庵野秀明、細田守、新海誠らの劇場用アニメを手がけるスタジオがエンドロールにずらりと並ぶさまは壮観だ。特にポノックは『思い出のマーニー』の完成後にジブリが制作部門を解体したことにより、同社を離れたスタッフが集まって出来上がったスタジオだけに、再びジブリの最新作に協力していることに感慨深いものがある。

 宣伝をしない、ということ自体が映画の宣伝に繋がり、自分の目で逸早く確かめようと足を運んだ観客で劇場が満席になる。こんなことが可能になるのは、ジブリのブランド力もさることながら、80年代からずっと話題作、ヒット作を世に送り出し続け、この人の監督作なら間違いないという評価を世間に浸透させた、宮﨑駿の底力あってのことだと思う。こういった“宣伝をしないプロモーション”が他の邦画やアニメーション映画で通じるはずもない。ジブリの新作だから、宮﨑駿の最新作だから当たったのだ。この鈴木プロデューサーの戦略の結果が、果たしてどんな興行成績に繋がるか。度々引退宣言と撤回を繰り返す宮﨑監督が、これまた最後のつもりで臨んだという『君たちはどう生きるか』が、前作『風立ちぬ』の120億という興収を超えられるかが注目だろう。

■公開情報
『君たちはどう生きるか』
全国公開中
原作・脚本・監督:宮﨑駿
製作:スタジオジブリ
主題歌:米津玄師
©2023 Studio Ghibli

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