人をイラつかせる天才!? 『ハリー・ポッター』アンブリッジ先生の生い立ちを解説

『ハリー・ポッター』アンブリッジ先生を分析

 イギリスの作家J・K・ローリングの小説を原作とした大人気ファンタジーシリーズ『ハリー・ポッター』。その映画化5作目『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007年)には、これまでのサブキャラのなかで最も強烈な印象を残したと言っていいキャラクターが登場した。ドローレス・アンブリッジ(イメルダ・スタウントン)だ。1度聞いたら忘れられない甲高い声と残忍な性格で、ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)たちはもちろん、観客もイラつかせた彼女は、それまでの「闇の魔術に対する防衛術」教授たちとは一味違っていた。ここでは、そんなアンブリッジを分析・解説してみよう。

「闇の魔術に対する防衛術」の教授たち

 ホグワーツ魔法魔術学校の「闇の魔術に対する防衛術」の教授職は、1998年にハリー・ポッターたちがヴォルデモート(レイフ・ファインズ)を打倒するまで、1年ごとに入れ替わっていた。これはヴォルデモートの呪いによるもので、ホグワーツの教授を志していた彼がダンブルドアに拒まれたことが原因だ。要するに嫌がらせだが、自分の手下であるデスイーターをこの教授職に就かせ、ホグワーツに潜入しやすくする狙いもあっただろう。これまでの教授たちはヴォルデモートの手下であったり、逆にハリーに味方する人物であったりと、各巻の中心となるキャラクターだ。

 『不死鳥の騎士団』までに登場した「闇の魔術に対する防衛術」教授のなかでヴォルデモートと関係していたのは、1作目『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年)のクィリナス・クィレル(イアン・ハート)と、4作目『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005年)のアラスター・ムーディ(ブレンダン・グリーソン)だ。正確には、ムーディはデスイーターのバーテミウス・クラウチ・ジュニア(デヴィット・テナント)に囚われ入れ替わっていた。彼らはそれぞれヴォルデモートから任を受け、虎視眈々とその機会をうかがっていた。しかし結果的に、クィレルは死亡し、クラウチ・ジュニアは正体がバレたことでダンブルドアに捕まり、「闇の魔術に対する防衛術」教授の席は空くことになる。クィレルの後、2作目『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002年)では、ギルデロイ・ロックハート(ケネス・ブラナー)がこの教授職に就くが、彼は優秀な魔法使いとは言えず、最終的にアクシデントで自らに忘却術をかけて辞任。3作目『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004年)で登場したリーマス・ルーピン(デヴィッド・シューリス)は、ハリーの父ジェームズ(エイドリアン・ローリンズ)の親友であり、ハリーたちの味方だった。しかし彼は狼人間であることが発覚し、生徒の保護者たちの抗議を受けて辞職した。

 そんななか、アンブリッジはハリーたちの“敵”ではあるが、ヴォルデモートとは直接関係のない特殊な立場にあった。さらに、ほかの教授たちは終盤にそれぞれの秘密が明かされるのに対して、アンブリッジは最初から最後まで嫌味な官僚という秘密のなさもユニークな点だ。

アンブリッジの性格、生い立ちとキャリア

 ドローレス・アンブリッジは、魔法省の官僚だ。彼女は権力を強く求め、上の立場にいる人間の言うことは正しいと妄信的に尽くす、権力におもねるタイプの人間だ。アンブリッジは、ヴォルデモートの復活を頑なに信じようとしない魔法大臣コーネリウス・ファッジ(ロバート・ハーディ)の主張を信じ、ハリーやダンブルドアと対立する。魔法大臣上級次官として、ファッジらに仕えていた彼女は、魔法省からホグワーツに派遣され、「闇の魔術に対する防衛術」教授職に就く。これはダンブルドアが大臣の座を狙っていると思い込んだファッジが、彼女にダンブルドアを監視させるための人事だった。

 彼女の性格には、当然ながらその生い立ちが深く関係している。純血主義のアンブリッジだが、本人は半純血。彼女の母はマグル、弟はスクイブ(魔法族に生まれながら、魔力を持たない者)だった。魔法使いである父の影響を強く受け、彼らを見下していたアンブリッジは、15歳になる前に両親が離婚した後、母が弟を連れてマグルの世界に戻り、その後二度と会うことはなかったという。

 ホグワーツ在学中スリザリン寮に所属していたアンブリッジは、あまり優秀ではなく、監督生や首席にコンプレックスを抱いていた。しかし卒業後、魔法省に入省してから彼女はまたたく間に出世する。これは彼女が有能だったというよりも、目的のためには手段を選ばない冷酷さと、権力者に媚びへつらう性格のためだった。こうして影響力のある地位を手に入れたアンブリッジは、今度は魔法省で閑職に就いていた父を恥じるようになる。そこで上層部に圧力をかけ、父を早期退職に追い込むことに成功した。その後、彼女は自分が半純血であることを隠し、純血の一族出身だと主張するようになる。そして魔法大臣上級次官となり、輝かしいキャリアを築いていく。

 有能な官僚であるアンブリッジだが、教育者としては最悪だった。そもそも教育になど興味がない、それどころか子ども嫌いの彼女は、授業で魔法の実践方法を教えることはなかった。これはファッジが、ダンブルドアが生徒を組織することを恐れたために、若い魔法使いや魔女を育成しないように仕向けたという側面もある。

 「闇の魔術に対する防衛術」教授となった後、彼女はさらにホグワーツで権力を得ることを追求する。結果、ホグワーツ高等尋問官および校長の座を手に入れた。これによって、生徒やほかの教授たちに対して絶大な権力を持ち、カリキュラムを勝手に変更するなど、魔法省の都合のいいようにホグワーツ改革を進めていく。

 アンブリッジがホグワーツを去り、魔法省に復帰したとき、魔法省は密かにヴォルデモートとデスイーターに支配されていた。そんななか、彼女はマグル生まれ登録委員会の委員長に就任する。「本物の魔法使いから魔法を奪った」と多くのマグル生まれの魔法使いや魔女を逮捕し、アズカバン送りにするという恐ろしい仕事をこなした。本人は知らなかったとはいえ、これは間接的にヴォルデモートの勢力を広げることになる。

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