『2001年宇宙の旅』から『M3GAN/ミーガン』まで AIとの付き合い方を映画から考える

映画からAIとの付き合い方を考える

 『アナベル』シリーズなどを手がけてきたホラーの名手ジェームズ・ワンが、こちらもやはりホラーの名プロダクション、ブラムハウスとともに手がけた『M3GAN/ミーガン』が公開中だ。両親を亡くした孤独な少女、ケイディ(ヴァイオレット・マッグロウ)の心を癒やすために開発された“お友達AI人形”ミーガン(エイミー・ドナルド/声:ジェナ・デイヴィス)。しかしいつしか彼女は、ケイディを傷つけるものをすべて排除しようと暴走していく。人間が開発したはずのAIが人間に危害を加えるSFホラーの定番設定だが、ミーガンの不気味かつかわいらしいルックスや奇妙なダンスも相まって、注目を集めている。

 Siriやアレクサなどのバーチャルアシスタントがスマートフォンに搭載され、AIが私たちの身近な存在になって数年。さらに最近はChatGPTやイラストを自動生成するAIの登場で、その注目度が一気に増した。そんななか、正直他人事ではないのだが、人間がAIに取って代わられてしまう可能性のある職業もあると言われている。そういった危惧は、映画では100年近く前から描かれてきた。最初にAIが登場した映画は、1926年にフリッツ・ラング監督によって製作されたサイレント映画『メトロポリス』だ。この作品では人間を模したアンドロイドが登場し、AIの概念を広く一般に知らしめた。それ以降、ロボット/アンドロイド/AI/人工知能は、SF映画になくてはならない存在になる。

 今回は、さまざまな映画に登場するAIを紹介しながら、彼/彼女らが人間にどんな影響をもたらすのか、人間とどんな関係を結ぶ存在として描かれてきたのか見ていきたい。

人類と対立するAI

 AIは現実においてもフィクションにおいても、人間には難しい問題解決を任されることが多い。しかしその結果、人類と対立するようになるというのは、AIを扱った作品では定番の展開だ。

 映画に登場するAIを語るにあたって、『2001年宇宙の旅』(1968年)に登場するHAL 9000(以下、HAL)は外せない。HALは、木星探査に出かけた宇宙船ディスカバリー号のすべてを制御する優秀なAIだ。彼は普段から宇宙飛行士たちと会話を交わしつつ、ともに任務を遂行していた。しかし実はHALにだけ言い渡されていた極秘の任務もあり、その間の矛盾に混乱してしまう。自分だけで極秘の任務を遂行することが可能だと判断したHALは、そのために不要と判断した乗組員の命を奪っていく。冷徹で人間的とは言えない判断に思えるが、HALについてはまた別の側面もあるので、それについては後述しよう。

 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)では、トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)とブルース・バナー(マーク・ラファロ)が生み出した人工知能ウルトロン(ジェームズ・スペイダー)が、アベンジャーズと対立することになる。彼は、アイアンマン型のロボットに人工知能を埋め込み、地球を守る「ウルトロン計画」のために作られた人工知能だ。しかし、計画の安全性を危惧するバナーの意見を無視して、スタークが独断でそれを実行に移してしまう。その結果、突如自我を持ったウルトロンは「地球の平和を守るためには、人類を根絶しなければならない」と判断する。たしかに人類は地球という惑星に害をもたらす存在であることは否定できないが、スタークたちの意図は「地球で“人類が”平和に暮らす」ことだ。それを根底から覆すウルトロンの結論は、人間同士であればわざわざ口にしなくても推測できる前提を、人工知能には理解できないと示すものだった。

人間と同じ感情を持っているかのようなAI

 一方で、AIに人間のような感情をもたせることは、人類の夢とも言える。映画をはじめとするフィクションでも、そういった物語がくり返し描かれてきた。

 先述したHALは、人間の乗組員と対立することになるものの、その原因は“精神が崩壊”したからだった。2つの異なる任務に板挟みになり、混乱してしまうというのは、バグといえばそれまでかもしれないが、ある種人間的とも言える反応ではないだろうか。その後HALは、異変に気づいたボーマン船長(キア・デュリア)に、モジュールを引き抜かれ、自立機能を停止させられる。ここで興味深いのは、まるでHALが人間と同じく感情を持っているかのように描かれていることだ。機能停止させられそうになったHALは、「怖い」「やめてほしい」と懇願する。このやりとりは、機械にとっての機能停止は、人間にとっての死と同じだと感じさせる。HALは口調こそ機械らしく平坦だが、その切実さには人間に近いものがにじみ出ているのだ。この描写は、HALに感情があったのではないかと思わせる。

 劇中で人間と同じく感情を持っている“かのようにふるまう”AIが描かれた作品もある。『エクス・マキナ』(2014年)のエヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)は、彼女にチューリング・テストを行うケイレブ(ドーナル・グリーソン)と恋に落ちたかのようにふるまい、ある計画を進める。チューリング・テストとは、人工知能が人間と同等もしくは区別がつかない程度の能力を持っているか確かめるテストだ。それはケイレブたちに悲劇をもたらすが、それこそ彼女がテストをパスしたことを証明するものとなった。エヴァはまさしく、彼らを騙すことができるほどに、人間と区別がつかない能力を持っていたのだ。

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