『らんまん』は何年経っても“消えない作品”に サブキャラにとどまらない丈之助の重要性

『らんまん』は何年経っても消えない“作品”に

(左から)堀井丈之助役・山脇辰哉、井上竹雄役・志尊淳、西村寿恵子役・浜辺美波、槙野万太郎役・神木隆之介

 その丈之助、万太郎の情熱に感化され、自身はシェイクスピアの全訳を目指したいと言っていた。彼はやがてそれを実現するのではないか。史実では、日本で初めて全訳した人物は坪内逍遥で、丈之助のモデルは彼ではないかという説がある。ただ、丈之助が以前、日本人によるシェイクスピア翻訳が歌舞伎調になってしまうことを批判していたが、坪内逍遥の訳をそのように批判したのが、太宰治である。『新ハムレット』に「このたび、坪内博士訳の『ハムレット』を通読して、沙翁の「ハムレット」のような芝居は、やはり博士のように大時代な、歌舞伎調で翻訳せざるを得ないのではないかという気もしているのである」と書いている。例えば、丈之助のモデルが坪内逍遥だとして、滝沢馬琴をはじめとした先行する世代の作家を批評しながら、彼もまた、後の世代に批評されていく。そうやって時代は更新されていく。それでも、渾身の力で完結させたものは、必ず残る。寿恵子はそう信じている。それはつまり絶対に諦めない、ということではないだろうか。

 そう思うと、第59話、第60話で、万太郎の祖母・タキ(松坂慶子)が年をとり、もう思い残すことはないと思っていたが、万太郎が寿恵子を連れて佐川に戻ってきたとき、ひ孫を見たいと、生きる欲望を湧かせることもまた、生きることを諦めないことだと感じる。人間は死により完結するわけだが、その完結の形も、最後まで生ききることで、その人の人生が名作になり、語り継がれる。

 余談だが、現在、PARCO劇場で『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』が上演されている。筆者は先日観たのだが、これを観て、ハムレットと彼の友人ホレイシオの関係が万太郎と竹雄のように見えた。ハムレットは王子で、ホレイシオは彼の従者のような立場ながら学友で、ふたりの関係は絶対的な信頼で結ばれ対等なのだ。『らんまん』では田邊教授(要潤)がシェイクスピアを読んでいるし丈之助がシェイクスピアを研究している。万太郎の植物学の黎明期と並んで、文学の世界では欧米の作品の研究がはじまっていた時代。これまでない新しいものに、日本人が熱情を注いでいた時代で、その成果が、令和のいまも残っている。寿恵子の予言どおり、百年経っても消えていない。『らんまん』を観ていると生きる力が湧いてくる。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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