『らんまん』は良い作品の条件を満たし続ける 伊礼彼方、田中哲司、要潤が見せた“別の顔”

『らんまん』が満たす良い作品の条件

 今さらながら、良いドラマの条件とは何だろうと考える。魅力的なキャスト、心に響く脚本、それらを活かす演出……。NHK連続テレビ小説『らんまん』の放送が始まりもうじき3カ月になるが、本作はまさにそれらすべてを満たしていると感じる。

 中でも第11週「ユウガオ」では先に挙げた3つの要素に加え、登場人物たちの新たな顔が視聴者に提示され、それぞれのキャラクターがより深く立ち上がった。ここでは特に印象的だった登場人物3名の“別の顔”について語ってみたい。

完璧に見えた貴公子が宿す強者の理屈

 明治維新後、実業家となり政府の要人とも密接な関係を築く元薩摩藩士の高藤雅修(伊礼彼方)。留学からの帰国後は日本を西欧列強と並ぶ国にしようと積極的に西洋の文化を取り入れ、鹿鳴館で日本の国力をアピールするため奮闘する。ビジュアルにも秀で、クラシック音楽やダンスにも精通し、寿恵子(浜辺美波)にもレディファーストで接する貴公子のような存在だがじつは既婚者。竹雄(志尊淳)が働く西洋料理店では元老院議官・白川永憲(三上市朗)とふたり、寿恵子に対し妻・弥江(梅舟惟永)のことを跡取りを産めなかった女と平気で言い切り、女性を産む道具か自由に愛でるアクセサリーとしか認識していないことが露呈した。

 西欧と肩を並べる国にしたい、男と女は同等のパートナーであると語りながら、息をするように女性を下に置く彼の思考は無意識であるがゆえにより性質(たち)が悪い。高藤が彼なりに日本の未来を考え、勉強し、働いてきたことも事実であろうが、こと男女の関係においては自己中心的かつ独善的な考えで動き、そのことに疑問すら持たない人物であると、華麗な貴公子の“別の顔”が明らかになった。

まさかのツンデレ? 万太郎への感情が変化

 第11週でもっとも鮮やかに“別の顔”を見せてくれたのは東京大学植物学教室の助教授・徳永政市(田中哲司)だろう。小学校中退の万太郎(神木隆之介)が大学に出入りすることを嫌い、ことあるごとにキツい言葉を投げかけてきた徳永だが、上司である田邊教授(要潤)の恐ろしい顔を目の当たりにしたことをきっかけに、万太郎に対し柔らかな一面を開示する。

 留学の経験もなく日本文学を愛する徳永は、西洋至上主義者である田邊からどこか小馬鹿にされており、英語が流暢でないことや海外の文化に詳しくないことが徳永自身のコンプレックスにもなっている。学者としての将来に対し諦めのようなものを抱いている徳永の前に不意に現れたのが万太郎なのだ。小学校中退でありながら英語を話し、植物の標本を完璧に作って植物学会の会報誌制作まで自力でやりきる。学問の世界では自分よりずっと大きなハンデを背負っているはずの万太郎が情熱を糧に植物研究と向き合い一歩ずつ前進する姿は、徳永にとって脅威であると同時に、植物学者としての生き方に一種の希望をもたらしたのではないか。

 その希望の芽をいとも簡単に踏みつぶそうとする田邊の冷酷さを再認識した徳永は、初めて自分から万太郎とコミュニケーションを取る。「なぁ……も、問題」とアサガオ、ヒルガオ、ユウガオのクイズを不器用に繰り出すさまから、この男が物語の中で単なるイジメ役でないことがわかった。徳永が愛するユウガオは、アサガオやヒルガオと違いウリ科の一種だ。彼はそんなユウガオの属性に西洋至上主義に乗り切れない自分を重ね、日々を生きているのだろう。

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