アーノルド・シュワルツェネッガーは“計算高い人物”なのか? その生き方に学ぶ成功への道

シュワちゃんの生き方に学ぶ成功への道

 第2部からは映画業界に乗り出し、世界的大スターになっていく、われわれにとって馴染み深い「シュワちゃん」の活躍が紹介される。逞しい肉体とともに映画俳優として大きく認められた『コナン・ザ・グレート』(1982年)、寡黙な戦闘アンドロイドを演じ、大ブレイクを果たした『ターミネーター』シリーズ、アクションだけでなくコメディの才能があることを広く示した『ツインズ』(1988年)などを振り返っていく。

ジェームズ・キャメロン

 順風満帆に見えたシュワのキャリアだが、人気が低迷した時期もある。『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993年)は批評、興行収入ともに芳しくなく、周囲にポジティブな姿勢を見せてきたシュワでも、目に見えて落ち込んでいたのだという。だが、フランスの映画作品を参考に、アクションとコメディを本格的に融合させた大作のアイデアを思いつき、ジェームズ・キャメロン監督に売り込んで完成させた『トゥルー・ライズ』(1994年)は好評で、その後の再起の足がかりになった。

 だが、いつでも次のキャリアを意識しているシュワは、ついに政界への進出を画策することとなる。このあたりが「計算高い」と言われる理由であり、映画界でのライバルであるとされるシルヴェスター・スタローンとの、生き方の決定的な違いであるといえよう。

シルヴェスター・スタローン

 第3部では、まずカリフォルニア州知事立候補の流れが説明される。当時の妻である、ジョン・F・ケネディ元アメリカ大統領の姪というバックグラウンドを持つマリア・シュライバーの助けも得て、『ターミネーター』の決め台詞「I'll be back(アイル・ビー・バック)」を多用して人気を集めながら、シュワは一気に州知事の座を手にすることになる。

 政治家として彼が興味深いのは、党派性にこだわらず独自の判断で突き進む点である。共和党支持者でありながら、多様性の尊重や温室効果ガス問題などの分野ではリベラルな考えを持ち、民主党の助力も積極的にあおいでいる。党派に左右されるのでなく本人に主体性があるという点において、シュワは州知事としてのリーダーシップを果たしたといえるのではないだろうか。

 しかし、この時期の話題として避けて通れないのは、やはり有名な不倫スキャンダルだろう。妻や子どもたちがいながらメイドと関係を持ち、隠し子が存在していたことが発覚したのである。このスキャンダルによって、シュワの評判は地に落ちることとなる。

ジョセフ・バエナ

 この件に関しては擁護する余地は皆無だ。その一方で本シリーズでは、この話題にしっかりと触れるとともに、インタビューを受けるシュワが言い訳をせずに、当時隠蔽しようと考えたということを告白し、妻や子どもたちを傷つけたこと、そして不倫相手の女性とその子どもを傷つけたことの後悔を述べていて、その一点については真摯だといえる。救いなのは、隠し子だったジョセフが姿を見せ、現在の親子関係が良好であると説明されるところである。

 そして最後に紹介される近年のシュワの活動は、気候変動への取り組みやワクチン接種キャンペーンへの協力、ウクライナに攻め込んだロシア兵士へ自制のメッセージを送るなど、慈善的な社会貢献だ。オーストリアを母国に持つシュワは、自身のルーツにも関係のあるナチスドイツの蛮行について意識を持たざるを得なかったことも、この心理に影響していると思われる。トランプ元大統領の差別的言動を厳しく批判し、議会襲撃にまで発展した過激なトランプ支持者や陰謀論者に対し、その行為をナチスの暴力と繋がるものだとして警鐘を鳴らすメッセージも公開している。

 本シリーズでは、いつでも自分のキャリアを考え、目標のために最大限に自身のポテンシャルを利用してきた、シュワの生き方を理解することができる。その「計算高い」考え方は、成功の一つの道であることは確かであり、不倫騒動以外の部分においては、参考にしたいところが多々ある。そして一方で、彼の計算による努力の方向が、いま他者や不特定多数の幸福へと向くようになっているという点にも注目すべきだろう。

■配信情報
『アーノルド ~シュワルツェネッガー、三つの人生~』
Netflixにて配信中

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