『あなたがしてくれなくても』陽一の“錯覚”は何だったのか 永山瑛太が発したセリフの衝撃

『あなたがしてくれなくても』陽一の心を考察

赤ちゃんを抱いたみちの笑顔に、「幸せ」を見たのでは

 陽一は迷っていたのではと推測すると、オーナーが言ったひと言が、実は大きかった気がする。「いつまでもアイスクリームとかナポリタンとか、食べてたいんですよ」と言う陽一に、「ずっと子どもでいたいってか」と突っ込んだオーナーは、「男なんてそんなもんだよな」と同意しつつ、諭しながら続けた。「でも出来たら出来たで、自分の“分身”みたいでよ」と。オーナーは、だから自然とかわいいと思うようになれると“プラスの意味で”口にしている。しかし陽一が自分を嫌いだったなら、自分の分身が生まれることを喜ぶだろうか。やっぱり「子どもは欲しくない」となるのではなかろうか。ここでのひと言が、「みちちゃんの分身だからな」「みちちゃんとの子だからな」といった言葉だったら、何かが違っていただろうか。

 そして、冒頭でも触れた錯覚、幻影について。カフェの階段前で、幼児と、ベビーカーに赤ちゃんを乗せたお母さんが困っていた。「手伝いますよ」と迷わず申し出た陽一に、「ありがとう、陽ちゃん」と、笑顔で赤ちゃんを抱っこするみちの幻影がよぎる。やっぱり「子どもは無理だ」と再認識した、とは見えなかった。むしろみちの笑顔に「幸せ」を見たように映った。それは陽一自身にとって、驚きと戸惑いの瞬間だったかもしれない。でも、「みちとなら」という気持ちが見せた映像だったのではないだろうか。

 陽一にとっての「子ども作って“も”いいよ」は、「子どもは欲しくなかった。俺は自分が嫌いだから。けれど、今日、子ども連れのお母さんを見たときに、みちに見えた。幸せに見えた。みちとの子だったら、愛せるかもしれない。作ってもいいと思えた」だったのかもしれない。でも、陽一のバックボーンを推測し、心の中を覗き、落ちている言葉を自分なりに手繰り寄せた結果がそうだったとして、実際には、そうは言っていない。

 ところで、陽一は、誰に対しても同じと言う人もいるが、個人的には、陽一にとってみちは特別な人だったように思う。だからこそ、大切にしなければならなかった。でもできなかった。愛されていたことに甘え過ぎていた。みちと出会ったことで、多少は変わった部分もあったが、自分を愛してくれたみちのために、自分が愛したみちを手放さぬために、さらに変わらなければならない部分を見過ごしてきた。「それはそれで俺のせいなんで」という言葉も、陽一は、そんなことを言っている場合ではなかったのだ。

離婚を受け入れた楓の凛とした美しさにこそ、本来の彼女が

 さて、「離婚」を伝えられたもう一人の当事者である楓は、陽一とは対照的な対応が描かれた。皮肉なことに、陽一からの、「自分のせい」との言葉が突き刺さり、圭子編集長(MEGUMI)に本当の自分を見つめてもらい、彼女は離婚を受け入れた。それより前に誠が伝えた「男としての愛情が戻らなかった」との言葉は、口にしなくていい強烈なひと言だったが、そのときに背中をさすってみせた楓には、とても大きな愛が見えた。そして、「わかった、いいよ。離婚しよ」と離婚を受け入れた際に、さらに大きな、彼女の本来の強さと美しさを見た。きっと、この姿の奥にこそ、誠の愛した凛として美しい楓がいたはずだが、誠の目にはもうその美しさは映らなかった。

 彼らの物語も残すところあと2回。物語は、いよいよ大詰めだ。予告編では陽一と誠が同席していた。セックスレスに始まり、夫婦の在り方から、個人として進む道、生き方をも問い始めた本作は、どこへと向かい、何を提示するのか。

■放送情報
木曜劇場『あなたがしてくれなくても』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:奈緒、岩田剛典、田中みな実、永山瑛太、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴『あなたがしてくれなくても』(双葉社)
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
演出:西谷弘
プロデュース:三竿玲子
主題歌:稲葉浩志「Stray Hearts」(VERMILLION RECORDS)
挿入歌:稲葉浩志「ダンスはうまく踊れない」(VERMILLION RECORDS)
音楽:菅野祐悟
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/anataga_drama/
公式Twitter:@anataga_drama
公式Instagram:@anataga_drama
公式TikTok:@anataga_drama

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