山田裕貴も絶賛したテレビの枠を超えた“リアル” 『ペントレ』美術スタッフに裏側を聞く

『ペントレ』美術スタッフに聞く裏側

 毎週金曜日にTBS系で放送中の『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』。6号車の乗客も登場し、物語は新たな展開を迎えている。ある日、電車の一部車両が未知の世界に飛ばされてしまうという突飛な設定を、“リアル”たらしめているのが本作の美術だ。作品の象徴ともいうべき車両から、広大な“ペンディング”世界まで、美術チームはいかに作り上げたのか。美術プロデューサーの二見真史氏と美術デザインの野中謙一郎氏に話を聞いた。

テレビドラマの枠を超えた美術造形

――最初に本作の企画を聞いた際、率直にどう思われましたか?

二見真史(以下、二見):まず作品の内容を聞いた時に「普通の連ドラの規模でできるのかな」というのが率直なところでした。通常、電車や車をロケで借りるときには制作セクションの方が準備するんですけど、最初の打ち合わせのときに「この電車は技美術が作るのか」みたいな話から始まって。無理ならバスや図書館、カフェ、学校にした方がいいんじゃないかという話も出ましたそうして打ち合わせを重ねていく中で、プロデューサーが「ちょうど60人くらいのコミュニティになる電車の規模感がすごく大事だ」と。それをこちらも受け止めて、見積もりを何種類も作りました。

――その中で、つくばエクスプレスさんの協力が決まったんですね。

二見:そうですね。プロデューサーのおふたりがすごく頑張っていろいろな鉄道会社と打ち合わせをして、つくばエクスプレスさんが今回の企画に乗ってくれました。つくばエクスプレスさんの方から、「今使っていない電車がある」とおっしゃっていただいたので、そのパーツ(車両)の中身をまるっと外して、緑山スタジオに移築する方法を取りました。

――オープンセットはどの程度の期間で作られたのでしょうか?

野中謙一郎(以下、野中):約1カ月かけて作りましたが、「1カ月でよくできたな」というのが率直な感想です。

――オープンセットの大きさは?

野中:200坪くらいですかね。

二見:でも、僕らが手を加えたところが200坪であって、実はその先に緑山の地形、もともと木が生えている山みたいなところを使ってるんですよ。なので、そこも入れると600坪~800坪になっちゃうかもしれないです。

――この規模感のセットは、そうそうないことなのでしょうか。

二見:僕が携わった作品で緑山にオープンセットを建てたのは『天皇の料理番』(2015年/TBS系)以来です。オープンセットであれだけの規模はそれ以来。野中さんも『この世界の片隅に』(2018年/TBS系)以来だと思うので、数年に一度くらいでしょうか。

――以前、ナビ番組で「苔や岩にこだわっている」と拝見しました。

野中:苔や岩にこだわるのは、SF要素が多いから。逆にリアリティのあるものじゃないと、視聴者が冷めるんじゃないかと個人的に思っていまして。車両自体のパーツもリアルなものを使えましたし、車両上のパンタグラフの近くにある“がいし”などは、3Dプリンターを使ってリアルに再現してるので注目してほしいです。

――ちなみに、6号車も同じような規模で作られている?

二見:村みたいなところで暮らしている設定なのですが、それは千葉の山奥に行って撮影してきました。

野中:車両自体はほぼ5号車と変わりませんが、先頭車両で運転席があるので、その部分には壁を追加しています。台本上、“中に仕切りができている”というト書きがあったので、実際の自然木で電車の中を区切って、5号車とはまったく違う印象に仕上げました。

二見:今回、電車の片側は全部LEDにしていて、スタジオセットでは樹海の風景を表現しています。その利点を活かして、6号車では違う風景をLEDに映しているんです。電車自体は6号車も5号車も基本的には同じですが、そうすることで全く違う場所にあるように見えるという、うまいLEDの使い方をしてます。

――キャストのみなさんからも、あまりにリアルなセットで驚いたという話をよく耳にします。

二見:オープンセットは僕らも自信を持っていて、撮影が始まってから、オープンセットがあまりに良かったので「これはなるべくオープンで撮ったほうがいい」と役者さんたちが話しているのがなんとなく聞こえてきたんです。でも、スタジオのセットに入ってきたときに、主演の山田さんが「これはすごい! テレビドラマの枠を超えてる!」と言ったのがまた聞こえてきて、それは嬉しかったですね。きっと、白背景で電車以外は何もなくて、窓外が真っ白な世界を想像していたと思うんですけど、僕らが作ったセットにはLEDも3DCGも使っているので、スタジオで撮っても外とまったく変わらない環境に映るように仕上がっている。それにびっくりされていました。

――第5話で登場した“お風呂”について、何かエピソードはありますか?

二見:初めから「お風呂が出てくる」とプロデューサーから聞いていたので、風呂釜はどうしようかと。丸太をくり抜いても火にかけられないし、川沿いで温泉を掘るわけにもいかないし……と言っていたときに、ちょうどロケハンで行った碓氷峠に、昔の線路跡があって。そこのトンネルの脇に、古い大きな配電ボックスがあったんですよ。それを見ていたので、オープンセットを建てる前の設計の段階から、トンネルの脇に密かに配電ボックスみたいなものを飾っておいて、「のちにこれを風呂釜にすればいいかな」と話していました。

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