『クロちゃんずラブ』を傑作にした野村周平の怪演 漂う哀愁はまるで『男はつらいよ』?

『クロちゃんずラブ』を傑作にした野村周平

 そして、この野村の熱演により、各話で登場する5人のヒロインキャストの、伊原六花、田鍋梨々花、川津明日香、佐野ひなこ、松井愛莉が魅力的に映し出されていく。特に最終話の松井は他のヒロインとは違い、最初は懐疑的だったからこそ、どんどんクロちゃんのペースにハマっていき、心を許していく姿、そしてあのコスプレでの笑顔が本当に愛おしく、それだけに恒例の結末が本当にもったいないと胸が苦しくなる。

 初回と最終話の脚本を担当する政池洋佑は、南海キャンディーズの山里亮太が毎回実在する旬の女優やモデルと恋をする妄想物語を描いた山里原作ドラマ『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京)の脚本に参加していた。マドンナを愛おしく見せ、彼女は自分に好意があるかも? と勘違いさせて好きになってしまう女性像を描くのが巧く、今作でも発揮している。

 ここまでこの物語を惹きつけるものは、やはりクロちゃんという特殊な人物の面白さに他ならない。そもそもクロちゃんは、でたらめでサイコパス感はあるが、考えていることは常にストイックで、ある意味ピュア。アイドルプロデュースにしても実に真面目だったりする。そのことについて以前SHOWROOMの『豪の部屋』に出演した際に指摘され、「ルールを破って目立つことは簡単だけど、ルールの中でどうやって目立つかの方が絶対かっこいいから、僕は基本的にそういうつもりでやってますからね」という発言をしていたように、矜持を持っている人物なのだ。ただ、表現の仕方が常軌を逸し、奇行に走ることが多いだけ。どうしてそうした行動に移ってしまうのか。このドラマを観ていると、二次元が好きで、恋愛は少女漫画を教科書にする脳内回路になってしまう理由が分かるような気がする。

 ただそれを知ったところで人生の役に立たないところが、この作品の魅力。多くの人が驚愕のエピソードにドン引きしながら楽しむと思うが、中にはこのクロちゃんのどこか勘違いしている恋愛下手なところや、自分に甘いところ、お金にケチなところ、親子関係など、普通の青春ドラマでは描かれない描写だ。しかしそれが限りなくリアルなので、共感する人もいるのではないだろうか。むしろ欲望のままに動ける羨ましさ。だからこそロマンティックであり、どこか切ない哀愁を感じる。もはや全身センス・オブ・ワンダーという存在だ。

 また、インターミッションとドラマ終了後に、クロちゃん本人、小峠英二(バイきんぐ)、藤本美貴、高橋みなみが、ほぼ反省会の感想を語り合うスタジオパートがあり、毎回クロちゃんが当時を思い出し泣き、他の人は辛辣につっこんでいく。このパートは物語の答え合わせでもあるのだが、真相を聞くとさらに輪をかけてクズっぷりが増し、本人にとってはピュアな美談として捉えられている、その本人とゲストの温度差も見どころだ。

 まさに、傑作であり怪作となった今作は“令和の『男はつらいよ』”とも言える。ただ、寅さんのように誰かを幸せにするわけでもなく、決してマネはしてはいけない、そこがクロちゃんらしさ。“野村の代表作”と称するのは憚られるかもしれないが、早くも続編を期待したい。

■配信情報
Paraviオリジナル 人生ドラマ劇場『クロちゃんずラブ~やっぱり、愛だしん~』
Paraviにて配信中
主演:野村周平
出演(ゲスト):伊原六花(1話)、田鍋梨々花(2話)、川津明日香(3話)、佐野ひなこ(4話)、松井愛莉(5話)
企画:原央海
脚本:政池洋佑、平岡達哉(3話・4話)
監督:田島与真
プロデューサー:宮崎陽央、山田奈那子、渡邊宏、内田安妃子
製作協力:ジッピープロダクション
製作著作:Paravi
©Paravi
配信ページ:https://www.paravi.jp/title/110208

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