『生理のおじさんとその娘』が浮かび上がらせた多様性の本質 脚本・吉田恵里香の熱い願い

『生理のおじさん~』が描いた多様性の本質

 2022年10月、「8割の女性が生理の日に、血が気になってお風呂をガマンしている」という調査結果に基づいて開発された、“湯船が真っ赤になる入浴剤”が物議を醸した。

 たしかに最初から湯船が赤ければ、血の色は目立たない。だけど、多くの女性が生理中はシャワーのみで済ませる理由は、自分の血が混じっている湯船に浸かりたくないとか、湯船の中で血が出る瞬間のドロっとした感覚が不快とか、同居人への気遣いからだったりする。あまり問題解決になっていないことに加え、マーケティングの観点から女性の心情よりもキャッチーさを重視した商品形態や広告も批判の的になった。

 この騒動に「またか……」と思った人も多いだろう。2020年8月には気の持ちようではどうにもならない生理中の不快感や体調の変化を、“個性”という言葉でポジティブ表現する生理用品のキャンペーンが炎上。その約1年前には、女性従業員に生理中であることを示すバッチの任意着用を呼びかける百貨店の取り組みが批判された。

 こうした生理にまつわる諸々の問題を解決しようとする動きは、たびたび賛否を巻き起こす。もちろん、より良い解決策を生むためにも議論は必要だ。だけど、これまでの騒動を見ていると、多くの場合はどうやら最後に「自分が当事者ではない問題にはそっとしておくのが吉」という結論に達しているように思えた。

 前置きが長くなってしまったが、「え、それで本当にいいんだっけ?」という疑問に答えてくれたのが、3月24日にNHK総合にて放送されたドラマ『生理のおじさんとその娘』だ。

 主人公の光橋幸男(原田泰造)は生理用品メーカーの広報として働いており、生理について詳しい。高校生の娘・花(上坂樹里)の生理周期を完璧に把握し、彼女の弟である嵐(齋藤潤)も含む家族全員でその情報を共有。生理に関する豊富な知識に基づき、自らセレクトしたナプキンをポーチにセットしたり、花の身体に負担がかからないよう家事の一切を請け負ったり、とにかく全力でサポートする。

 そんな幸男をあなたはどう思うだろうか。「こんなお父さんがいて羨ましいなぁ」と思う人もいれば、「父親に生理のことに触れられるとかマジ勘弁!」と思う人もいるだろう。実際、「おじさんだけど、生理時の不快を和らげるお手伝いがしたい」と熱弁する動画がバズったことをきっかけに“生理のおじさん”として一躍有名になった幸男だが、当然世間には彼を快く思わない人もいた。

 生理の当事者ではない男性がちょっと知識があるからって、その辛さを知った気になっているのではないか――幸男をちやほやする声に紛れ、消されていた人々のモヤモヤは、彼が生放送の情報バラエティで共演したコメンテーターのうらら(菊地凛子)に「男性にこの手の話題に触れられることに正直抵抗がある」「娘さんも話しにくいのでは」と苦言を呈され、自分は娘の生理周期を完璧に把握しており、それによると今日の娘は生理2日目であることを思わず暴露してしまったことによって増長。SNSで炎上してしまう。

 さらには幸男の会社で、騒動の火消しとして花を使おうとする動きがあることも明らかに。本作が描くのはこの一連の炎上事件をきっかけに始まる父と娘の喧嘩……のはずだが、実際には喧嘩にすらならなかった。なぜなら、花は幼い頃に病気で亡くなった母の楓(麻生久美子)と、「パパは泣き虫だから喧嘩しないで仲良く」という約束を交わしたから。それはある種、呪いとなって花の心に残り続ける。

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