『生理のおじさんとその娘』が浮かび上がらせた多様性の本質 脚本・吉田恵里香の熱い願い

『生理のおじさん~』が描いた多様性の本質

 シングルファザーとなった幸男は、仕事と家庭の両立で毎日必死。そんな父親が“良かれと思って”やってくれていることに不満をいえば、花は自分のことを悪者みたいに思ってしまうだろう。それに同級生である月坂さん(まりあ)の家庭にお邪魔したら、生理のことを理解しようともしない、何なら穢れのように扱う男性陣の態度に違和感を覚えた花は幸男がやっていることが間違っているとも思えない。一方、月坂さんも月坂さんで自分の好物を食卓に用意してくれる家族を嫌いにはなれず、何か思うことはあってもつい口をつぐんでしまっていた。

 「あなたのためにやりました」と言われると、人は弱い。たとえ、そうやって押し売りされたものが全く役に立たないものであっても突っぱねるのは何だか悪い気がしてしまう。冒頭で挙げたいくつかの騒動も「生理中の女性を少しでも楽にしてあげたい」という誰かの思いから出発しているため、批判するのに躊躇ってしまった人もいるだろう。実際に各騒動の最中、SNSでは苦言に対する苦言も見受けられた。

 もちろん、自分にとっては必要のないものでも誰かにとっては必要で、自分は賛同しかねる誰かの行動が社会に良い影響をもたらすということも多々ある。仕事にかまけて妻の体調の変化を見逃してしまったこと幸男の、後悔から生まれた「生理についての知識が広まることで救われる命もある」という心情に基づく活動だってそう。少なからず、会社の後輩である橘(三山凌輝)の生理に対する認識を変えた。嵐も幸男に育てられたからこそ、女性蔑視が潜むヒップホップ界隈で、ナプキンを買うのも一苦労なバイト生活を送りながら戦う女性ラッパーの柚子葉(MANON)を素直にかっこいいと思える。

 だけど、それはそれ。花には幸男が自分の生理事情を晒したことに抗議したり、どんなナプキンを使用するか、生理中にどのように過ごすかについて自分で決めたいと主張したりする権利がある。誰かの行動や言葉に(たとえ、そこに悪意がなかったとしても)傷ついたら怒ってもいいし、違和感を持ったら声を挙げたっていいのだ。全肯定も全否定もしなくていいから、お互いの声を聞き、当事者と非当事者が一緒くたになってみんなの大切な人が辛い思いをせずに済む道を見つけられたらいい。

 最後に幸男と花を中心に主要人物たちが、自分の思いをラップに乗せて届ける一見カオスな展開から、多様性の本質を浮かび上がらせた本作。脚本家の吉田恵里香とNHKはこうした斬新な切り口で声なき人の声を社会に届けていきたいという、2024年前期の連続テレビ小説『虎に翼』に向けたアピールにもなったであろう。

 同性間の恋愛や、恋愛に終始しない男女の関係をさりげなく盛り込まれていたのも、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)や『恋せぬふたり』(NHK総合)を手がけてきた吉田らしい脚本だ。作中におけるうららの「将来の不安や孤独に悩む人たちを助けたくてこの仕事を始めた」「(たとえそれが認められなくても)私たちにはやらなきゃいけないことがある」という台詞には彼女自身の思いも込められているように感じた。改めて、日本初の女性弁護士・三淵嘉子をモデルにしたヒロインのドラマ『虎に翼』に期待が高まる。

■配信情報
特集ドラマ『生理のおじさんとその娘』
NHKプラス、NHKオンデマンドで配信中
出演:原田泰造、上坂樹里、齋藤潤、三山凌輝、菊地凛子、堀部圭亮、山本未來、黒田大輔、まりあ、MANON、鷲尾真知子ほか
語り:麻生久美子
作:吉田恵里香
音楽:macaroom
制作統括:清水拓哉
演出:橋本万葉
プロデューサー:大越大士、石澤かおる
写真提供=NHK

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