『どうする家康』松山ケンイチ×松本潤が表現した異なる怒り 弱さを受け止め成長する家康

『どうする家康』本多正信がぶつけた怒り

 『どうする家康』(NHK総合)第9回「守るべきもの」。不入の権を侵し、寺から年貢を取り立てたことで始まった三河一向一揆。家臣の裏切りも相次ぎ、家康(松本潤)は身近な家臣さえも信じられなくなっていた。そんな家康のもとへ鳥居忠吉(イッセー尾形)が訪ねてくる。「口うるさい隠居の最後の小言だと思ってお聞きくだされ」と忠吉は家康に、たとえ裏切られても信じきるか、疑いのある者を切り捨てるか、二つに一つの道を示した。

 忠吉の言葉を聞いた家康は覚悟を決めた。金荼美具足を身につけた家康は、家臣たちを前に声をあげる。

「わしについてこいとは言わん!」
「主君を選ぶのはお前たちじゃ、好きな主を選ぶがよい!」
「わしは! お前たちを信じる!」

 迷いが吹っ切れたのは家臣たちも同じだった。これを機に戦況は好転し始め、一揆側は次第に追い詰められていくこととなった。

 信じきることを選び、決意を固めた家康の懸命な姿も魅力的に映ったが、第9回で何よりも心を打ったのは、嘘をつくことができない家康の眼だ。

 和議を結んで一揆を鎮めたあとに寺を潰せという織田信長(岡田准一)や水野信元(寺島進)の意向に、家康は決して納得していない。しかし一揆を収めるためにはその選択をするしかなかった。空誓上人(市川右團次)は家康との和睦に応じるが、空誓は家康のまことを信じたいと言った。空誓が「わしの目を見て、寺は必ず元どおりにするとおっしゃってくださらんか」と口にしたとき、酒井忠次(大森南朋)と石川数正(松重豊)が家康の様子をうかがう。家康を演じている松本は悲しげな表情を浮かべ、一度視線を落とす。再び視線を上げ、空誓の目をまっすぐ見るまでの間に、葛藤を乗り越え、一揆を鎮めるための決断を下したように見えた。

「寺は……元どおりに……いたす」

 家康は空誓から目をそらさず、約定を言葉にする。だが、絞り出すように言葉を発する度、その表情は何かに耐えているようだった。続く空誓の表情によって、家康が耐えていたものが確証に変わる。家康は懸命に嘘をついていたのだ。空誓が見せた表情には失望と安堵が入り混じる。失望の色が見えたのは、本多正信(松山ケンイチ)が忠告した通り、和議が嘘だったからだ。けれど空誓はそれと同時に、家康の嘘をつけない眼から彼の本当の思いを悟る。空誓も家康も、平和を求める思いは同じだ。多くの死者を出す戦を終わりにするために嘘をついた家康に、彼の信念を見たからこそ、空誓は寺が元どおりにならないことを知った上で和議を結んだのだろう。

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