『THE SWARM/ザ・スウォーム』には『チェルノブイリ』の影響も? 製作総指揮が語る

『THE SWARM』を製作総指揮が語る

“国際的な作品とは?”を再定義

ーードイツ、フランスをはじめ各国の放送局が参画しています。その中で日本から初めてHulu Japanが参画したことの意義や期待することなどを教えてください。

ドルジャー:私が「国際的」と言われる作品に関わり始めたのは主にHBOの作品が中心だったのですが、当時は北米やヨーロッパなど限定された国だけが関わっているにもかかわらず、「国際的」と呼んでいることが多かったです。私の制作会社、インタグリオ・フィルムズを創立した時に「国際的な企画というのは、場所やキャストよりも、その題材がより多くの国の人々にとってインパクトがあり、感情面に響くかどうかが重要だ」と言ったことを覚えています。まさに今回の『THE SWARM/ザ・スウォーム』は真の意味で国際的な作品と言えるのではないかと思います。原作ではヨーロッパを中心に描かれており、アメリカや日本、中国が悪役的に描かれているのですが、先ほど申し上げたようにそういった作品にはしたくありませんでしたし、今回ご一緒したパートナーの方々はそういった私の意見に賛同し、信頼して下さいました。また、Hulu Japanとは別の企画も進めており、それはさらに多くの国々が関わるプロジェクトとなっています。今作の制作を通じて、国際的な作品がどういうものなのかを改めて再定義することができました。

ーーこれまで『ゲーム・オブ・スローンズ』など大規模なプロジェクトを手掛けてこられましたが、今回の『THE SWARM/ザ・スウォーム』はさらに国際的なプロジェクトとなりました。これまでの作品との違いや難しさ、面白さなどありましたら教えてください。

ドルジャー:どの企画にも挑戦はつきものです。『THE SWARM/ザ・スウォーム』に関しては新しい音の使い方にチャレンジしました。本作はモンスターものとして描いてますが、視聴者は最後の最後までその姿を見ることがないので、生命体が発する音や海の音のリアル感にこだわり、見えないけれども感じることのできるキャラクターとして表現しました。また、本作に取り掛かったのはパンデミックが起きる前だったのですが、世界各国にいるキャラクターがお互いに連絡を取るという設定を考えた時に、ビデオ通話をどのように映像で表現するかというのは課題の一つでした。ビデオ通話のシーンはただ単にモニターに顔が映っているというのではなく、アップにしたり、いろいろな形の表現を試行錯誤しながら作っていきました。新型コロナウイルスの影響で我々はすっかりビデオ通話に慣れて今や自然なコミュニケーションの一つになりましたね。それから、いかに視聴者にとってリアルな世界の物語だと感じてもらえるようにするかというのもチャレンジの1つでした。ファンタジーや超自然的な要素を含む物語ですが、うまくバランスをとってリアリティーを失わないように表現するのが難しいポイントでした。実はこれは『ゲーム・オブ・スローンズ』の時も当初悩んだポイントでもあります。様々な部分で新しいチャレンジができた作品となりました。

ーーこれまでファンタジーや歴史ものを多く手掛けてきた印象がありますが、あまりSF作品に携わってきたイメージはありません。今回『THE SWARM/ザ・スウォーム』を手掛けることにした決め手などありますでしょうか。

ドルジャー:自分の制作会社を始め、『ゲーム・オブ・スローンズ』からプロデューサーとして離れた時に、やりたいことが2つありました。1つは国際プロジェクトを手掛けること、2つ目は歴史ものでなく現代ものを作ることです。さらに、エンターテインメントでありながら、科学、政治、社会的な要素を持つ作品を作りたいと思っていたので、本作はまさにぴったりでした。この作品はエンターテインメントとして楽しめるだけでなく、観た後に人と話し合いたくなるような考えさせられる作品だと思っています。また現代ものでありながら、ファンタジーとリアリティの2つの要素を持ち、キャラクターの目を通してストーリーが描かれていくという、ファンタジー、歴史もので培ってきたストーリーテリングの技術を応用できた作品です。

イマジネーションをテレビや映画に限定したくない

ーー数多くのエミー賞を獲得してきたドルジャー氏ですが、作品づくりにおいて、こだわりや大切にしていることなどありましたら教えて下さい。

ドルジャー:必ず、自分にとって新しい挑戦となる作品を手掛けてきたと思います。たとえば、『ゲーム・オブ・スローンズ』も『ジョン・アダムス』、『ROME[ローマ]』も、当時の自分にとっては新しい世界に足を踏み入れる作品でした。そして、登場人物が興味をそそられるキャラクターかどうか、彼らが物語の中で学び成長していくかどうかも大事です。視聴者がその道のりに寄り添っていくことが重要だと考えています。また、作品作りにおける、中心となるアイデアをしっかりと定義したいと考えています。核心がしっかりと見えていれば、それをベースに様々な選択ができます。しっかりとした枠組みなしではキャンバスを描けないし、描きたくないと思っています。『ゲーム・オブ・スローンズ』の場合はファンタジーとリアリティをどう両立させるのか、『ジョン・アダムス』の場合はアメリカの革命を、『ROME[ローマ]』は古代ローマを今までとは違った形でどう表現できるかというテーマがありました。本作は、「モンスターものではあるが、実はそのモンスターは海の中に潜んでいるのではなく、我々人間自身だった」というのが1つの枠組みになりました。それがはっきり見えてから前に進むことができたし、未知なる生命体を扱う他の物語とも差別化できると思いました。

ーー今回の『THE SWARM/ザ・スウォーム』製作にあたって、影響を受けた作品や参考にした作品などありましたら教えて下さい。

ドルジャー:フィルムメーカーとして、自分のイマジネーションや参考とするものをテレビや映画に限定したくないので、キャリアの初期から他の映像作品をあまり観ないようにしています。例えば、後半に登場する生命体の描写で参考にしたのは、イギリスの画家フランシス・ベーコンが書いたX線の肖像画のシリーズです。目に見えて感じることはできるのですが、形が流動的なものをイメージしました。またミケランジェロのピエタ像、聖母マリアがキリストの遺体を抱いている像ですね、あれを参考にしたシーンもあります。このように、本作で参考にしたものの多くは、テレビや映画からインスピレーションを得たものではありません。自分のスタッフにも同じように、他の映像作品に限らずいろいろと観てほしいと言っています。一部、映像作品を参考にした部分もあります。映像作品はフィクションではなく、自然系のドキュメンタリーをよく参考にしました。また、最後まで生命体の存在を見せないでいこうと決めた時に参考にしたのが、テレビシリーズの『チェルノブイリ』(2019年)でした。あの作品では原子炉がモンスター的な役割を担うわけですが、目に見えない間もずっと存在感を持ち続けています。我々視聴者は原子炉を常に脅威の存在として感じながらシリーズを見続けていきます。同じように、本作でも音楽や効果音によってモンスターの存在感を常に意識させようとしました。

「海」をキャラクターとして扱う

ーー『THE SWARM/ザ・スウォーム』の一番の見どころは何でしょうか?

ドルジャー:私はこの作品をディザスターもの(自然災害を描くパニックもの)にするつもりはなく、モンスターもの(怪物を扱った作品)としてアプローチすると決めていました。そのモンスターは海の中に潜んでいるのではなく、一体何なのかは作品を見てからのお楽しみですが、ご覧になった方はきっとその展開に驚かれるのではないでしょうか。エンターテインメント作品として楽しみながらも、最終的にはそういった気付きを得て、感動してもらえるような作品になっていればと思います。

ーー映像で特にこだわったところを教えてください。

ドルジャー:主に2つの点にこだわりました。まず1つ目は「海」をキャラクターとして扱うこと。『THE SWARM/ザ・スウォーム』では登場人物たちが海で起きたことに対してリアクションをすることで物語が進行していきます。そういった背景もあり、海を1つのキャラクターとして描くことが重要でした。そのため、屋外のシーンはなるべく海に近いところを撮影場所として選び、視覚からも音からも海という存在を感じられるように工夫しています。2つ目は、海のシーンは場所によってビジュアルやサウンドを全く異なるものに変えているという点です。海というものが美しくも危険な場所であり、人間よりもはるかに力強い存在であるということを表現したかったんです。

ーー『THE SWARM/ザ・スウォーム』を楽しみにしている日本の視聴者にメッセージをお願いします。

ドルジャー:まずは作品を楽しんでいただきたいです。2つ重要なポイントがあります。1つ目は原作では割とはっきりと「善人」「悪人」を分けて描いているのですが、ドラマでは絶対にそのような描き方はしたくありませんでした。みんな善悪のバランスが取れたキャラクターとして描いています。気候変動や海を守るために、我々全員が行動することができるのだということを伝えたかったからです。ドラマの中のあるキャラクターのセリフに「海が死ねば我々も死ぬ」というものがあります。今まで皆さんが環境に対してどう振る舞ったのかは別にして、本作を観ることで、環境に対してまた違った向き合い方ができるようになればと思っています。2つ目は原作では割と年配のキャラクターが多いですが、ドラマでは若いキャラクターに設定を変更していることです。若い世代の中には、環境に対するダメージがあまりにも大きすぎて、希望がないんじゃないか、もう何をしても無駄なんじゃないかと思っている方もいると思います。そんな方々にも、作品を見終わった後に、まだまだ私たちにもできることがあると感じてもらえればうれしいです。

超大型深海SFサスペンス
Huluオリジナル『THE SWARM/ザ・スウォーム』特集

『ゲーム・オブ・スローンズ』の主要プロデューサーの一人、フランク・ドルジャーが手がけた超大型深海SFサスペンスが誕生した。世界中…

■配信情報
Huluオリジナル『THE SWARM/ザ・スウォーム』(全8話)
Huluにて独占配信中
製作総指揮:フランク・ドルジャー
監督:バーバラ・イーダー、ルーク・ワトソン
原作:『THE SWARM』フランク・シェッツィング著
脚本:スティーヴ・ラリー、マリッサ・レストラード
制作:インタグリオ・フィルムズ、ndFインターナショナル・プロダクション
©︎Intaglio Films GmbH / ndF International Production GmbH / Julian Wagner / Leif Haenzo
©SchwarmTVProductionGmbH&CoKG

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