『舞いあがれ!』リュー北條が体現するプロの姿勢 史子への“エゴイスト返し”も秀逸!
『舞いあがれ!』第19週から登場した史子(八木莉可子)の存在感が、とにかく強い。怖いくらい、貴司(赤楚衛二)が登場する全てのショットに映り込んでいるレベルで常にそこにいる。彼の短歌に惹かれ、そして彼自身に惹かれた彼女の登場は明らかに物語上、主人公・舞(福原遥)に貴司への気持ちを実感させて焦らせる装置でしかないと思われた。ところがここにきて感じる狂気には、どこかスティーヴン・キング著の『ミザリー』を彷彿とさせるものがあり、『舞いあがれ!』第93回もその点で“創作”に関わる重要な視点が描かれたように思える。
ライバルを登場させたり、久留美(山下美月)や突然現れた新聞記者の御園(山口紗弥加)などあらゆるキャラクターを総動員させて質問をさせたり、舞に貴司のことを意識させるプロットがここにきて目立つ。彼女はしきりに“今は(恋愛面で)何もない”、“貴司とは何でも話せる幼なじみで居続けたい”と言っているのに、周りが聞かないものだから何だか強引に思えてしまう。確かに、貴司への特別な気持ちはそこにあるはずだ。しかし、今の舞にとってはそれを焦って伝えてしまうほど簡単なものでもないし、史子の介入によって嫌なのは、貴司に彼女ができることより、貴司と自分がこれまで通りの距離感で同じ関係性を保てなくなることへの不安の方が大きいのではないかと思える。
変化を迫られる中、その“変わっていくこと”に対して臆病でいるのは貴司も同じだ。賞を受賞して、歌集を出すことになった。とんとん拍子で聞こえはいいが、そこに求められるのはアマからプロへの意識の変革である。担当者のリュー北條(川島潤哉)はこれまで粗暴で、キツい印象があったが、今回で確かにプロの編集者として、とても重要な教えを貴司に投げかけた。
「梅津さんなんか、伝えることを諦めている気がするんだよね。自分だけの狭い世界に満足している」
自主出版のような、“自分だけ”、そして“わかる人だけにわかる”ものを作ろうという誘いの話ではない。広く開かれた場所に向けたものを作るからこそ、同じマインドではいられない。いろんな人に伝わる言葉を書くことの大切さを説く彼の姿勢は、執筆業に携わる人間としてハッとさせられるものがある。売れるものを作るには、売れるものを考えなければいけないし、“売れるもの”を作りたくないなら、その先に進まなければいいだけ。史子のように耳心地の良い、自分にとって都合の良い言葉をかけて成長を止めさせる人の声を聞くか、リュー北條のようにキツいけど自分の殻を破って成長させる声を聞くか。「自己満足なものはいらない。1人でも多くの人間に伝わるものを書いてほしい。梅津さん、成長しないと。いつまでも同じでは、いられないんだよ」というリュー北條のセリフは、貴司だけではなくテレビ画面をこえて我々に訴えかけるものがあった。