『ブラッシュアップライフ』バカリズムの脚本術が光る 絶妙過ぎるマクロとミクロの視点

『ブラッシュアップライフ』絶妙過ぎる脚本

「オオアリクイに生まれ変わるか、人生をもう1度やり直し、徳を積んで次の転生に備えるか」

 死後すぐこう問われて「じゃあ、オオアリクイで!」と元気に答える人はまずいない(ですよね?)。1月スタートの新ドラマ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)の主人公・近藤麻美(安藤サクラ)も当然後者を選択し、徳を積むべく2周目の人生に挑戦する。

 が、そこはバカリズム脚本。徳を積むといっても生死の境をさまよっている人を救出したり、不正を暴いたりといった大掛かりな“徳”ではなく、友達の父親が不倫しそうになっているのを阻止したり、中学時代に嫌いだった教師を痴漢の冤罪から救ったりと、彼女が積むのは半径3m内での“徳”である。しかしこれらの展開が超絶おもしろい。

 主人公と同年代のアラサー女性のみならず、幅広い世代からアツい支持を得ている『ブラッシュアップライフ』だが、本作のおもしろさを生み出す要因がどこにあるのか、おもに脚本にフォーカスをあてて考えてみたい。

 まずひとつめはバカリズムが紡ぐ独特のせりふと安藤サクラをはじめとする出演者との相性の良さ。劇中、強い断定口調で語る20代~30代の登場人物は皆無で、ほぼ全員が「~だよねー」「~かもねー」とゆるく喋りながら、がむしゃらとは正反対のモードで生きている。特に麻美が親友、夏希(夏帆)や美穂(木南晴夏)たちと交わすガールズトークの“あるある”感は凄い。確かに満腹時に知人がサービスで出してくれたポテトは最高に残しにくいし、容姿も性格も申し分ない同性の同級生は悪口すら言えないぶん、逆に性格が悪い。大盛りで頼んだご飯の増量分を残すのは大罪だ。わかりみ。

 台本に書かれているであろうせりふをまるでその場で思いついたように超自然に語る俳優陣のスキルや、彼女たちが醸すガツガツしていない雰囲気と脚本との高い親和性がこのドラマのおもしろレベルをしっかりと上げているのは間違いない。

 もうひとつは脚本・バカリズムの構成の上手さ。

 氏が手掛ける脚本の大きな特徴のひとつが“設定そのものは大嘘だが、細かいシチュエーションにはこだわる”構成。本作でもそれは生きており、不慮の事故死を遂げた33歳の主人公がもう1度自分の人生を(死んだ時の記憶やスキルをすべて持ったまま)やり直すというマクロの大嘘を広げ、麻美と親友たちが織りなすガールズトークの“あるある”感や、薬剤師の仕事の細かい提示など、ミクロでのリアルはしっかり成立させている。綿密な取材が為された上で脚本が書かれているのだろう。

 また、作中での重要なアイテム、もしくは伏線回収のカギとして登場する公衆電話やポケベル、白いたまごっち、シール交換、プロフィール帳、mixi、ゲームボーイアドバンスなども麻美が生き直している時代を詳細に映す鏡であり、視聴者の多くが「あった、あった!」と頷けるものばかり。さらに「ポケベルが鳴らなくて」(1993年/国武万里)、「僕が一番欲しかったもの」(2004年/槇原敬之)、「粉雪」(2006年/レミオロメン)、「イケナイ太陽」(2007年/ORANGE RANGE)など、当時のヒット曲が流れると、その時代に自分がどこで何をしていたかつい回想してしまう。

 そもそも多くのタイムリープもので主人公が時間軸を移動し未来を変えるのは、おもに自らの重要な運命か大切な人の人生だが、本作第2話までのストーリーでそういう場面は出てこない。生まれてから社会人になるまで麻美にも人生の大きな分岐はあったはずなのに、バカリズムはそれらを華麗にスルーし“半径3mの徳”にこだわる。2周目の人生で麻美は当事者というより周囲の人間の未来を知っている観察者なので、彼女の語りが多い構成も非常に効果的だ。

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