『THE FIRST SLAM DUNK』は原作未読でも楽しめる? 漫画評論家に聞く
また、『SLAM DUNK』はバスケ界にも大きな影響を与えているという。
「もう一つ重要なのが、『キャプテン翼』を読んでサッカー選手になりました』というサッカー選手が、ある時期の日本代表選手の中に多く、『キャプテン翼』が現実の世界のサッカーに影響を及ぼしているように、『SLAM DUNK』もそれに近い影響をバスケに及ぼしています。近年、日本の選手がアメリカで活躍するようになりましたが、『SLAM DUNK』の連載当時は日本人選手がアメリカの舞台で活躍するなんてことは夢物語のような状況だったので、そういう意味でも現実世界を変えていると思います。井上雄彦先生自身も『スラムダンク奨学金』という活動をしていて、バスケ人口を増やしたはずです」
そんな熱狂的ブームを巻き起こした原作漫画は31巻で幕を閉じた。その中で描いた期間は、主人公・桜木花道の高校入学から夏休みまでの1学期、わずか3カ月あまりだった。その短さについて、当時の読者としての感覚を島田氏は以下のように振り返る。
「最終巻は、試合中のわずか数分間を1冊かけて描いています。高校時代の3年間には濃密な時間が流れていて、社会に出てからよりもゆっくりと時間が流れていたような気がします。何か夢中になれるものがある10代の若者にとって、高校時代の春から夏までは、決して短い時間ではない。そういう意味では、桜木花道の1学期は、31冊かけて描くくらい濃密なものだったと言えるのかなと思います。一方、映画の方は、最初から最後まである試合が描かれているだけ。その合間に、宮城リョータの過去やそれ以外の4人、キャプテンが背負っているものや、主人公・桜木花道なりの頑張りみたいなことが並行して描かれていく。つまり、映画はバスケの試合の限られた時間だけじゃなく、彼らの17年も一緒に描かれています。それゆえに、単に試合が流れていたという作りではない。構成自体が違うので、その後も彼らの物語は続いていく。山王戦はものすごく面白く、あれ以上のものはなかなかできないと思います。井上先生は、『SLAM DUNK』のあとに違う切り口で『リアル』という車椅子バスケの世界を描いています。『SLAM DUNK』ではすごそうなライバルキャラが顔だけ出ていたり、他に伏線が張られているものも全て放り投げていますが、あのキャラクター、あのシチュエーション、おそらく高校バスケの試合の物語としては最高のものができてしまっているので、そういう意味で『SLAM DUNK』は終わったんだと思います」
大成功となった『THE FIRST SLAM DUNK』。他のキャラクターを主人公として描く『THE SECOND SLAM DUNK』の可能性はあるのだろうか。
「それはないんじゃないでしょうか。エースの流川楓とキャプテンの赤木剛憲は物語の真ん中には持っていきづらいと思います。赤木はキャプテンで、物語でいう師匠的な役割。流川は同じチームだけど、桜木花道のライバルのような立ち位置。強いて言うなら、途中でグレてバスケから離れて、『(やっぱり)バスケがしたいです』と戻ってくる三井寿の視点だったら物語が作れるかもしれません。ただ、それもちょっと普通な感じがするので、宮城リョータしかなかった気がします。仮にもし次を作るんだとしたら、おそらく大人になった流川楓と桜木花道が主人公になるんじゃないでしょうか」
バスケットボールの一試合を観に行くような感覚で映画館へ行ってみると、想像もしていなかったような興奮と感動が待ち受けているかもしれない。
※記事初出時、一部の写真に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
■公開情報
『THE FIRST SLAM DUNK』
公開中
原作・脚本・監督:井上雄彦
演出:宮原直樹、北田勝彦、大橋聡雄、元田康弘、菅沼芙実彦、鎌谷悠
キャラクターデザイン:井上雄彦、江原康之
CG ディレクター:中沢大樹
作画監督:江原康之
サブキャラクターデザイン:番由紀子
モデルSV:吉國圭、BG
プロップSV:佐藤裕記、R&D
リグSV:西谷浩人
アニメーションSV:松井一樹
エフェクトSV:松浦太郎
ショットSV:木全俊明
美術監督:小倉一男
美術設定:須江信人
色彩設計:古性史織
撮影監督:中村俊介
編集:瀧田隆一
音響演出:笠松広司
録音:名倉靖
キャスティングプロデューサー:杉山好美
音楽プロデューサー:小池隆太
2Dプロデューサー:毛利健太郎
CGプロデューサー:小倉裕太
アニメーションプロデューサー:西川和宏
プロデューサー:松井俊之
声:仲村宗悟、笠間淳、神尾晋一郎、木村昴、三宅健太
オープニング主題歌:The Birthday(UNIVERSAL SIGMA)
エンディング主題歌:10-FEET(EMI Records)
音楽:武部聡志、TAKUMA(10-FEET)
アニメーション制作:東映アニメーション、ダンデライオンアニメーションスタジオ
配給:東映
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