『チェンソーマン』のアニメ表現はMAPPAの真骨頂 原作を“補完”する映画的な作品だった
年の瀬が近づき、秋アニメもクライマックスへと差し掛かっている中、『チェンソーマン』も最終回を迎えようとしている。アニメ放送前から大きな盛り上がりを見せていた同作は、制作者の意向で写実的・映画的な手法を組み込み、従来のアニメ表現とは異なる斬新な見せ方をしてきた。
本稿では、最終回に向けて『チェンソーマン』の制作陣が趣向を凝らしてきたアニメ表現の素晴らしさについて振り返ってみたい。
『チェンソーマン』マキマの怪しさが色濃いものに 新生特異4課メンバーの解説も
ついに、最終話に向かってラストバトルが始まった。『チェンソーマン』第11話「作戦開始」では、“超インテリ作戦”を通して岸辺に鍛え…
同作は第1部の「公安編」が『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載され、第2部「学園編」は『少年ジャンプ+』(集英社)にて現在まで連載されており、これまでにコミックスの累計部数は2000万部を突破するなど、言わずとしれた大ヒット漫画だ。すでに周知されていることだとは思うが、ざっくりと話の流れを説明すると、主人公のデンジが「チェンソーの悪魔」であるポチタに自らの心臓を捧げることで、チェンソーマンとして能力を開花。そんな中で、公安対魔特異4課のリーダーであるマキマに拾われ、公安所属のデビルハンターとして生きていくことになる。いわゆる、ジャンプ作品における王道主人公気質ではなく、私利私欲丸出しで、過小な目標を掲げて生きている(掲げるというほど大したものではないが)エキセントリックなキャラクターだ。主人公のデンジをはじめ、パワーや早川アキなど個性的な登場人物の関係性も本作の魅力ではあるが、ここで注目したいのはアニメ表現へのこだわりである。
『チェンソーマン』を手掛けたのは制作スタジオのMAPPA。『呪術廻戦』や『進撃の巨人 The Final Season』、『ドロヘドロ』など数々の人気作、意欲作を映像に落とし込み、安定した高いクオリティのアニメを届けてきた。通常のアニメであれば、複数の企業が出資し合う「製作委員会方式」で制作されるが、本作はMAPPAが100%出資するという前代未聞の形式を取っており、制作側の並々ならぬ気概が感じられる。EDテーマがそのエピソードごとに毎回アーティストが異なっているのも、この形式だからこそ実現した演出である。アニメーションプロデューサーの瀬下恵介は、「『チェンソーマン』の『画面の設計』では、より写実的・映画的なレイアウトを目指しています」(※)と明かしているように、同作は原作をアニメの絵としてただ見せるのではなく、アニメとしての表現に加えて、映画的な手法を取り入れているのが新鮮だ。
『チェンソーマン』“実写的”映像表現の奥深さ 美しさが滲む、暴力&妖艶な描写の数々
「この秋のテレビアニメで、最大の話題作は?」と問われたら『チェンソーマン』の名前を出す方も多いのではないか。放送前から『週刊少年…
映像のクオリティに関して言えば、放送前の予告の段階で大きな反響が寄せられていたが、本編では期待のさらに上を行く作画が連発されている。それだけでも十分すごいのだが、何よりも絵の見せ方へのこだわりが各所に感じられるのだ。例えば、第1話でのデンジと「ゾンビの悪魔」の対決シーンでは、原作ではワンカットで描かれていた部分を、アニメでは多くの尺を使って戦闘シーンを丁寧に描写している。つまりは、アニメが原作の補完として働いているわけだが、原作では端折りがちな部分を細かく描くことは、起こっていることをありのまま映し出す映画的な描写のひとつと言えるだろう。