『リラックマと遊園地』ドワーフ&Netflixが切り開いた新境地 コマ撮りが持つ偶発的な魅力

『リラックマと遊園地』が切り開いた新境地

「がんばる、を忘れる10分間。」

 そんなキャッチコピーとともに公開された、Netflixシリーズ『リラックマとカオルさん』。

 会社員のカオルさんとリラックマ、キイロイトリ、コリラックマたちの日常をストップモーションアニメで描いた本作は、続編『リラックマと遊園地』でアパートを飛び出し、外の世界へ。ほんわかゆるいリラックマの存在が、遊園地を訪れた人々にちょっとずつ影響を与えていく。

 アニメーションを手がけているのは、『どーもくん』『こまねこ』のスタジオ「ドワーフ」。『リラックマと遊園地』のメインアニメーターを務めた根岸純子と人形造形の原田脩平に制作の裏側を聞いた。

制作期間は約2年

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――『リラックマと遊園地』は、1話がだいたい15分で8話構成だったので、トータルで約2時間ほどありますが、制作期間はどのくらいかかったのでしょうか。

原田脩平(以下、原田):人形を撮影している期間は半年ですね。ただ、撮影と同じくらい準備期間がかかって、撮影が終わった後も同じくらい時間がかかります。さらに、その前にシナリオを作っていく作業があるので……。

根岸純子(以下、根岸):トータルでいうと2年くらいですかね。

原田:これでも早い方で、海外の作品では4、5年かかるのが当たり前です。

根岸:中でも、人形のサイズを決めるのが一番大事な作業かもしれません。人形を大きくするとできることは増えたりするんですが、その分、セットも含め全てが大きくなってしまいます。なので、いろいろなところから検証して、最終的に「このサイズが収まりいいね」というサイズを慎重に決める必要があるんです。

――ストップモーションアニメは、絵コンテ、撮影などどのような順番で撮っているのですか?

根岸:基本はシナリオがあって、シナリオが出来上がったら、絵コンテに書き起こします。『リラックマと遊園地』では、絵コンテを基にBlenderという3DCGのソフトを使って、あらかじめカメラの位置と人形、セットの距離を検証していました。そうしないと、セットを際限なく作らないといけなくなってしまうので、データ上で確認して、どこまではCGで、どこまでを実際に作らなきゃいけないのかを確かめてから本番に入っていました。

――原田さんは人形造形を担当されていますが、すべての人形の制作に携わっているのですか?

原田:私が全体を統括しており、クリエイターの皆さんの個性や得意とする材料や手法を見極めながら、「これはあなた、これはあなた」と振り分けて制作をお願いしていました。例えば、カオルさんの人形は「マキノン&ソーンダース」という、ティム・バートン監督の『フランケンウィニー』などを手がけたイギリスの会社が作っています。一見シンプルなルックですが、頭には小さなギアの塊が入っていて、時計のようなとても精巧な仕掛けなんです。一方で、リラックマやキイロイトリは日本のスタッフが手がけていて、同じ画面の中にも実はものすごくいろいろなスタイルの人形が混在しています。

――リラックマたちの人形は柔らかいのでしょうか?

原田:柔らかく見えますが、アニメーターが持つ場所は硬い素材でできています。硬いものを柔らかく見せるというのは、実はとても技術が必要なことなんです。

根岸:腰を折らなければいけないので、お腹の部分は柔らかいんですよ。だから、場所によって固かったり柔らかったりするという感じです。

Netflixシリーズ『リラックマとカオルさん』全世界独占配信中

――カオルさんは、もともと「リラックマと暮らしている女性」という設定のみで、書籍やグッズでも姿は出ていなかったと思います。前作の『リラックマとカオルさん』に初めて登場させる際、どのような流れで今のデザインに決まったのでしょうか?

原田:カオルさんは何人かのデザイナーさんに描いてもらって、最終的に『アングリ―・バード』などを手がけているイタリアのフランチェスカ・ナターレさんのデザインに決まりました。カオルさんのスラッと伸びた長い脚やぴょこっとした鼻の形は、日本人のクリエイターだけでは思いつかなかったと思います。

根岸:しかも、フランチェスカさんが書いた平面のデザインを、マキノン&ソーンダースにいたタテオカタカシさんという日本人の男性が立体に書き起こしているので、本当にいろいろなエッセンスが混ざり合って、あのカオルさんが出来上がっているんです。

――『リラックマと遊園地』では、舞台が遊園地ということでピエロが登場していますが、あの独特な動きは何か研究をされたのでしょうか?

根岸:特殊な動きはYouTubeなどから参考資料を探してきて、それをアニメーターが反映させています。特に、ジャグリングのような動きは本物を見てやった方がよりリアルになるので。

――実際の人物から動きを取ってくるんですね。

根岸:ほかにも、リラックマはボートを漕ぐのが下手という設定があったので、YouTubeから子どもが初めてボート教室に参加した映像を拾ってきて、それを参考にしたりしました。昔はビデオから探し出していましたが、今はネットで簡単に検索することができるのでありがたいですね。ここがコマ撮りと実写の大きく違うところで、ドラマだと俳優さんに「もうちょっと元気にやろうか」と言えば、10秒くらいでできると思うんですけど、コマ撮りはその10秒に3日近く掛かってしまうので、なるべく事前に監督とアニメーターが動きを擦り合わせをすることが重要になってきます。

――アニメーターさんによって動かし方に特色はありますか?

根岸:あると思います。『リラックマと遊園地』では、1人だけ日本語が母語でないスウェーデンのアニメーターさんが入っていたのですが、逆に動きだけで笑わせるようなシーンが上手かったり。それぞれの特性にあわせて、お話ごとに担当を割り振っていました。それから、第7話で遊園地の人たちが司令室に集まってわちゃわちゃしているシーンは、事前に役者さんを呼んで演じてもらいました。大人数でいるときの視線の動きや、心の機微みたいなものは実際に演じてもらった方がわかりやすいんです。

――役者さんの動きもキャラクターの一部になっているんですね。

根岸:オープニングのダンスシーンにも実際に振り付けの先生がいて、その方の動画を参考に動きをつけています。

――あのダンスシーンでリラックマだけ手の動きが違うのが気になっていました(笑)。

根岸:よく気づきましたね(笑)。リラックマはダンスが苦手なのでわざと下手に踊らせています。

@netflixjapan リラックマと一緒に踊ろう🎶 『 #リラックマと遊園地 』制作の裏側第3弾は、可愛すぎるリラックマのダンスを作ってくれた先生が登場🐻🎪 #リラックマ #rilakkuma #夏アニメ2022 ♬ original sound - Netflix Japan

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