中村倫也らによる“やわらかさ”の真髄がここに 『狐晴明九尾狩』Blu-ray特典映像を解説

『狐晴明九尾狩』Blu-ray特典映像解説

 中村倫也、吉岡里帆、向井理らが出演した劇団☆新感線41周年興行 秋公演 いのうえ歌舞伎『狐晴明九尾狩』のBlu-rayが、いよいよ12月21日に一般店頭販売される。

 2021年9月から11月にかけて東京と大阪で上演された本作は、宮廷陰陽師として仕える安倍晴明(中村倫也)が、大陸からきた狐霊・タオフーリン(吉岡里帆)らとともに、陰陽師宗家の賀茂利風に化けて日の本支配を企てる九尾の妖狐(向井理)と知恵比べを繰り広げる伝奇ファンタジー。東京、大阪公演ともに連日満員御礼で、2022年にゲキ×シネとして全国の映画館で上映されて話題となった。

 細部まで考え抜かれた舞台と同様、Blu-rayも“観客”を楽しませようと仕掛けが満載で、満足度が高い。狐晴明九尾狩絵図が書かれた、妖しくも美しい白いパッケージには、ゲキ×シネとして上映されとても好評だった臨場感あふれる本編映像に加え、約2時間半に及ぶ映像特典と舞台写真が満載の特製ブックレットが収められている。

 映像特典に収められているのは、主演・中村倫也、演出・いのうえひでのり、作・中島かずきの特別鼎談、衣裳を担当した堂本教子へのインタビュー、島袋寛子が歌うメインテーマ「約束の未来」のミュージッククリップ、中村が「新感線のタイトルを背負うのは夢だった」という新感線ならではのオープニングタイトルシーンをマルチアングルで見ることができる映像などなど。ダンスあり、アクションあり、歌あり、笑いありと、総合芸術としての劇団☆新感線の魅力を深掘りでき、あらゆる方向からファンの期待に応えられる構成になっている。

 中でも必見なのが(舞台、ゲキ×シネを観ていない人は本編を観るまでは見ない方がよいが)、Blu-rayのために撮り下ろされた中村倫也、いのうえひでのり、中島かずきの特別鼎談だ。舞台を観た時の自分が何に心を動かされ、何に涙したのかを、作り手の思いに触れながら反芻することができる。

 例えば、冒頭では本作の初期構想について語られる。

「(中島)かずきさんが(中村)倫也で(安倍)晴明って言った時は『アリじゃん』ってすぐに思った。ミステリアスな、つかみどころがない晴明像に、倫也がぴったりじゃんってのがあった」(いのうえ)
「本来ずっとやりたいと思っていた晴明ものがあったんですけど、今回のキャスティングが決まった時に、それはちょっとハマらないなと思い別の話にしようと思った」(中島)

 これまでも色々な俳優が演じてきた安倍晴明。今回、中村が演じた晴明からは、ミステリアスな中にも、ピュアで温かさがある印象を受けていた。そしてこのピュアさと温かさは、作品全体に通底しているとも感じていた。それは中村倫也という座長の人柄によるところが大きいのだろうと自分なりに解釈していたのだが、その個性をキャスティングやシナリオ、演出によって膨らませていることが3人のトークから伝わり、鳥肌がたった。

「中間色な新感線」「水彩画」とも中島は表現していたが、今作が「新感線としてはやわらかい舞台」になったのは、コロナ禍のど真ん中で書いた作品であり、「倫也くんの晴明だったら、もっとやわらかく飄々として。そのやわらかい晴明がこうなりましたという話にしたい」とまさに狙い通りだったと明かす。

 作品の意図を役者が汲み取って、その身体を通して表現し、観る人が自由に解釈する。受け取り方に正解はないし、解説をするのは野暮だという考えもあるかもしれない。ただ作り手の思いを知ることで、より愛情が増し、深く作品を理解できることも確かだ。

 鼎談では、他にも、作・演出のこだわりや各キャストへの思い、劇団☆新感線作品の原点などについても約60分に渡りたっぷりと語られている。聴けば聴くほど、この時代、このキャスト、このスタッフだったからこそ出来上がった作品だと確信し、あらためて本編を堪能したくなる。

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