『鎌倉殿の13人』のキーワードとなる「天命に逆らうな」 三谷幸喜の巧みな脚本構造を分析

『鎌倉殿の13人』脚本構造を分析

 次に、物語の中、登場人物たちにとっての「天命」である。朝時(西本たける)に「昔は有名だったのに」と「徘徊老人」としてあしらわれた歩き巫女の言葉の真意はわからない。だが、そこに何らかの意味を見出してしまうのが、我々人間である。いきなりその言葉を投げられた、実朝・公暁は何を思ったのか。実朝は、懇意にしていた歩き巫女の言葉をそのまま、さだめとして受け入れたから、凶刃に抗うことなく倒れたのだろう。しかし公暁の場合、「天命」は2つ想定できたように思うのだ。

 1つは、義村(山本耕史)の煽りによってより肥大化することとなった、幼少期に刷り込まれた、見知らぬ老婆こと比企尼(草笛光子)の「北条を許すな」という呪いの言葉。そしてもう1つは、「あなたはあなたの道を生きるのです。立派な僧となって、八幡宮の別当として、鎌倉殿をお支えする」それが「天から与えられた道」つまりは「天命」であるという母・つつじ(北香那)の懇願に近い言葉である。「天命に逆らうな」を聞いた彼は、母の言葉を「天命」とすることもできたのに、どうしても、1つ目の「天命」の引力に抗うことができなかった。それは、その初めて見る老婆の姿に、かつて見た老婆の姿を重ねたのではないかとも言える。それもまた天命であり、それもまた、まごうことなき、彼自身の選択によってできた道だと言えるのである。

「お前は俗物だ。だからお前の作るものは人の心を打つ」

 義時にそう言われた、三谷作品において欠かせない存在でもある相島一之が演じる運慶は、ある意味、作家の分身とも言えるのではないか。最終回まで残り3話を切り、義時はこれまで己の「顔」を見続けてきた男に、「神仏と一体となった己の像」を依頼した。どんな像が完成するのか、はたまたしないのか。終わりの鐘の音を聞く時に、私たちは、運慶の目を通して、主人公・北条義時のまだ見ぬ本当の姿を知るのかもしれない。

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK

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