『鎌倉殿の13人』源実朝のあまりにも美しく悲しい最期 義村を見る義時の切ない眼差しも

『鎌倉殿の13人』実朝の美しく悲しい最期

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第45回「八幡宮の階段」。源実朝(柿澤勇人)の右大臣拝賀式が鶴岡八幡宮で盛大に執り行われる。鎌倉殿への野心に燃える公暁(寛一郎)は門弟と共に木の陰に潜んでいた。義時(小栗旬)と時房(瀬戸康史)は儀式を見守り、三浦義村(山本耕史)は御家人たちに交じって状況を静観する。

 まず心を打ったのが、実朝の最期だ。実朝を待ち構えていた公暁は「覚悟!」と雄叫びをあげ、太刀持ちを斬りつけた。太刀持ちは義時ではなく、源仲章(生田斗真)だった。「寒いんだよ〜!」と絶叫する仲章にとどめを刺し、公暁は実朝に狙いを定める。実朝は目を見張りながら公暁と見つめ合った。懐から小刀を取り出した実朝は、公暁から目を離さず、肩で息をしている。緊張した面持ちから、このときはまだ、公暁を迎え討とうとしていたはずだ。そんな実朝の脳裏で「天命に逆らうな」という歩き巫女(大竹しのぶ)の声がこだまする。憎しみを向ける公暁を前に、実朝は自身の巡り合わせを悟ったのか、少しずつ緊張が解けていく。自ら小刀を落とした後の表情は穏やかだった。実朝は公暁の目をじっと見て、静かにうなづく。その面持ちは諦めでも恐れでもなく、慈愛に満ちている。咆哮をあげた公暁が斬りかかり、実朝は命を落とした。

 年老いた歩き巫女は誰彼構わず「天命に逆らうな」と話しかけており、予言ではなくうわ言だったとも捉えられる。しかし、もしそれが分かっていたとしても、実朝は自らの天命を受け入れていたように思う。突然の悲報にさまざまな感情が交錯する鎌倉で、実朝の妻・千世(加藤小夏)が政子(小池栄子)のもとへやってくる。千世は和歌が記された紙を政子に差し出した。和歌を詠む実朝の、どこか物悲しく優しい声が響く中、出立前の実朝は千世の手を取り、あたたかな眼差しで彼女を見つめた。八幡宮の階段をのぼる前、実朝はふっと前を見やると、意を決したように足を踏み出す。兄・頼家(金子大地)の死の真相を知り、公暁の憎しみを思ったときから、実朝は別れを覚悟していたのかもしれない。あまりにも美しく悲しい最期だった。

 最期まで人を思い続けた実朝とは対照的に、義時は孤立を深めていくように思える。太刀持ちから外されたことで生き延びた義時だが、仲章の亡骸をじっと見つめる彼に安堵の表情が浮かぶことはない。義時は義村を追及した。義村は公暁をたきつけたことを認めたが、武士の頂点に立とうとしたがやめたと言う。

「今のお前は、力にしがみついて、恨みを集め、おびえ切ってる。そんな姿を見ていて誰が取って代わろうと思う」

 昔馴染みからの言葉に、義時は「私にはもう敵はいない。天も味方してくれた。これからは好きなようにやらせてもらう」と返すが、義村は「頼朝気取りか」とはねつけた。その場を去ろうとする義村に、「私に……死んでほしかったのではないのか!」と義時は感情を昂らせる。その声は微かに震えていた。盟友を信じたい気持ちがあったように思う。義村は義時に近づき、公暁が義時を殺す気だと知っていたら、自分がその場で公暁を殺していた、と伝える。だが、暗がりへと消えていく義村の手が襟元に触れた。第44回で明かされた義村が嘘をつくときの癖だ。義村が去った後、義時の後ろ姿が映し出される。どことなく寂しそうな背中に見えた。視聴者は義時の顔を見ることができない。嘘をつくときの癖を見た義時は、義村に何を思ったのだろうか。

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