『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』が描く“女性が強く生きること” 希望の光がそこに

映画『キュリー夫人』が描く“女性の生き様”

 ノーベル賞を2度受賞した天才科学者“キュリー夫人”こと、マリ・キュリー。誰もが子どもの頃、伝記小説もしくは漫画でその名前を目にしたことがあるのではないだろうか。

 彼女が夫ピエールとの共同研究で発見した放射性元素はがん治療にも活用され、医学の発展に大きく寄与したことはよく知られている。一方、プライベートでは2人の娘を育て上げたマリ。長女イレーヌもまた自身の夫とともに人工放射性元素の研究に励み、ノーベル化学賞を受賞。次女エーヴは芸術分野で才能を発揮し、のちに著した母マリの伝記は大ベストセラーとなった。

 科学者として、母親として。マリが残した偉大な功績を前に、同じ女性として少し居心地の悪さを感じてしまう。なんて彼女は強いんだろう。私には到底成し遂げられないことだ、と。だが、そんな気後れが、映画『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』でマリの半生を辿っていくうちに少しずつ薄れていった。本作は映像の中で光と影を効果的に使い、輝かしい栄光を手にする一方で、不条理の数々に見舞われたマリの揺れ動く心情を映し出していく。

 1867年、ロシア占領下のポーランドに生を受けたマリア・スクウォドフスカ(旧姓)。マリは幼少期から優秀な成績を収めていたが、当時は女学生の大学進学は認められておらず、ドイツの中等学校のギムナジウム卒業後には家庭教師として働き始めた。そんな彼女が先に留学していた姉に呼ばれる形でパリに移り住み、ソルボンヌ大学に入学したのは24歳の時。しかし、ここでも女性であるが故に正当な評価を受けられず、ついには研究室を追われてしまう。その矢先に出会ったのが、のちに夫となるピエールだった。

 マリは既に物理学者として高い評価を受けていたピエールにその才能を見出され、共同研究の話を持ちかけられる。研究拠点を見つけられず、路頭に迷っていたマリにとってこれ以上なく甘い誘いだ。だが当初マリはこの誘いには乗らず、あくまでも単独研究にこだわった。女性であることを理由とした妥協も甘えも一切自分に許さず、強くあろうとしたマリの姿。そして同時に、彼女にその姿勢を強いた時代の不完全さも印象深く映る。

 性差別が平然と行われる世の中において、ピエールは1人の科学者としてマリを尊重してくれる唯一の人だった。女性として、妻として、母親としての役割を彼がマリに委ねる描写はない。研究に身を捧げるマリの情熱を、彼女の夢は自分の夢と言わんばかりに献身的にサポートする姿がそこにある。

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