ヒップホップとスケートボードの蜜月を記録 『All the Streets Are Silent』から得るヒント
スケートボードとヒップホップの蜜月の関係は、決して2つのカルチャーの勃興初期からではないことをこの映画はまず語るが、そのことは、若い世代にとってはもしかしたら、驚きすら与えるかもしれない(そもそもヒップホップはNYブロンクス、スケートボードはカリフォルニア州ヴェニスが発祥の地とされており、東海岸⇄西海岸という対立を維持しながら現在にまで至る可能性すらあったのではないだろうか)。
ヒップホップ界、ラッパーはスケーターを「白人の遊び」と看做していた1987年。その境界が1997年に至るまで、徐々に壊れていくスリリングな展開が、本作の何よりの魅力だ。いわば、本作はヒップホップとスケートボードのラブストーリーとも言い換えられる。
ヒップホップとスケートボードの出会いは、まさに出会いの場にふさわしいクラブだった。ダウンタウンの荒んだ地域に日本人の手によって生まれたそのクラブの名前は、クラブ・マーズ。映画では、人種の坩堝と呼ばれるNYらしい狂騒のさまが映し出される。Mobyがレジデンスを務める一方で、キッド・カプリ、ビッグ・ダディ・ケイン、ジェイ・Z(当時からの変わっていなさに驚く)らがライブをする……そんなある種異様な空間を発端として、スケートボードとヒップホップの対立、ジャンルの壁、人種の壁が無効化する。本作は、クラブカルチャーの本質もまた捉えていると言えよう。
ドキュメンタリーである以上、本作の資料的価値にも触れないわけにはいかない。コロンビア大学のブースから深夜に生放送していたアングラカルチャーラジオ『The Stretch Armstrong and Bobbito Show』内でのバスタ・ライムスのフリースタイルや、スケーターなら誰もが知っているであろう(ラリー・クラーク監督作『KIDS/キッズ』の俳優、といえば映画ファンもハッとする人は多いのでは)、ハロルド・ハンターの気軽なクルーズの様子、シュプリーム開店当日の風景……などなど、キッズなら垂涎の映像の数々を観ることができる。
本作に登場するスケーターやラッパーに、カルチャーの当事者としての自覚が当時どれほどあったかはわからない。ただ、彼らにとって日常のほんの実践であったスケートやラップが、次第に1つの街の連帯につながっていったことを本作は証明している。スケートカルチャー、ヒップホップカルチャーに普段触れていない人たちにも観てほしい作品だ。否が応でも閉塞的にならざるを得ない我々にとっても、いやだからこそ、当時の彼らの姿に何かしらのヒントと熱量を受け取ることができるのではないだろうか。
■公開情報
『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合』
10月21日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開
監督:ジェレミー・エルキン
出演:ロザリオ・ドーソン、レオ・フィッツパトリック、ジェファーソン・パン、ジーノ・イアヌッチ、キース・ハフナゲル、マイク・キャロル、Fab 5 Freddy、ダリル・マクダニエルズ、クール・キース、ASAP Ferg、ブラック・シープ、ボビート・ガルシア、ストレッチ・アームストロング
ナレーション:イーライ・ゲスナー
音楽:ラージ・プロフェッサー
製作総指揮:デヴィッド・コー
製作:デイナ・ブラウン、ジェレミー・エルキン
配給:REGENTS
2021年/アメリカ/89分
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