ヒップホップとスケートボードの蜜月を記録 『All the Streets Are Silent』から得るヒント
東京五輪で新競技として採用され、日本代表も好成績をおさめたこともあってか、2020年以降、スケートボードの知名度や需要は、(特に国内では)大きく向上したと言っても過言ではないだろう。
ただ、スケーターの間ではオリンピックの正式種目化は賛否両論であった。その点が、スケートボードが勝敗を競う「スポーツ」とは少し異なる位相を持っていることの証左でもある。反骨精神を伴ったカルチャーの表層だけが掠め取られることの危惧は業界内で大きく騒がれた。ストリートにとっては、難易度・成功率などスケートボードのトリックの上手さだけではなく、街全体がスケートボードの場であり、自身が見つめる街の視線を変換する独創性や怪我を厭わない強靭なメンタリティーが、何より求められるのだ。
映画『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987-1997)ヒップホップとスケートボードの融合』に映るスケーターたちは、オリンピックの正式種目化など考えてもいなかったのだろう。彼らにとってスケートボードは都市空間が前提の遊びであり、だからこそ、この映画には当時のニューヨークという都市が持っていた猥雑さが自然と浮き彫りになる。
本作は、まさにコアからマスへ、ストリートからパブリックへ……という発展を遂げていくスケートボードの、ひいてはストリートカルチャーの過渡期を緻密かつ丁寧に記録したドキュメンタリー映画だ。だからこそ常にそこにはむせかえるような街の空気と喧騒が充満している。その騒々しさに、コロナ禍の今を生きる自分はどこか憧れにも似た感情を持たずにはいられない。
ところで、スケートボードというカルチャーにおいて、もはや切っても切り離せないものがヒップホップカルチャーだ。ラッパーのリル・ウェインは、東京五輪で金メダルを獲得したスケーターの堀米雄斗をMV撮影に招聘したと言われている。ヒップホップ界を代表するプロデューサーであるファレル・ウィリアムスや、第64回グラミー賞で最優秀ラップ・アルバムを受賞したタイラー・ザ・クリエイター、本作にも登場するウータン・クランのゴーストフェイス・キラなど、スケートボードを愛するラッパーは、枚挙にいとまがない。Supremeのスケーターであるナケル・スミスやセージ・エルセッサーもラップアルバムをリリースしている。