『キャシアン・アンドー』が表現する深い陰影のあるテーマ 自由で挑戦的な内容を考察

『キャシアン・アンドー』は挑戦的な作品に

 ディズニーの「ルーカスフィルム」買収以降、多くの『スター・ウォーズ』関連の映画、ドラマ作品が製作されている。ドラマシリーズでは、とくに『マンダロリアン』が多くの視聴者に支持されているが、「続3部作(シークエル)」やスピンオフ映画などの“映画作品”については、なかなか良質なものがあったとは言いづらいのではないか。

 しかし、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)は、『スター・ウォーズ』の世界観を新しい映画として生まれ変わらせた、充実した一作だったといえるだろう。その理由は、過去の記事「名も無き英雄たちは何を訴えかける? 『ローグ・ワン』 に引き継がれた『スター・ウォーズ』の魂」を読んでいただきたい。

名も無き英雄たちは何を訴えかける? 『ローグ・ワン』 に引き継がれた「スター・ウォーズ」の魂

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 そんなスピンオフ映画『ローグ・ワン』の、さらにスピンオフとなった、今回のドラマシリーズのタイトルは、『キャシアン・アンドー』。その主人公キャシアン・アンドーとは、『ローグ・ワン』においてディエゴ・ルナが演じていた、帝国軍の野望に挑む寄せ集め集団を率いた人物だ。

キャシアン・アンドー

 本シリーズ『キャシアン・アンドー』は、この原稿を書いている時点で第3話まで配信されている。すでに第2シーズンの製作が発表されていて、その結末は『ローグ・ワン』にそのまま繋がる予定なのだという。

 本作が特徴的なのは、主人公をアンドーに選んだというところだろう。すでにスピンオフドラマ化された、ボバ・フェットやオビ=ワン・ケノービのような、登場作品がいくつももまたがる、誰もが知る有名キャラクターではない。しかし、映画作品で活躍はしているので、『ローグ・ワン』を観ていない視聴者にとっては、『マンダロリアン』よりも敷居が高いと感じてしまうかもしれない。

 ゆえに本シリーズは比較的、視聴者の期待が大きいシリーズではなかったといえる。しかし、そのことが内容をより自由に、より挑戦的なものにしたともいえる。ここでは、そんな『キャシアン・アンドー』の、ここまでの内容を振り返りながら、そこで描かれた複雑な内容の意味を考察していきたい。

キャシアン・アンドー

 『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1977年)でのクライマックスで描かれた、「ヤヴィンの戦い」。その反乱軍勝利の裏には、キャシアン・アンドー、ジン・アーソらをはじめとする「ローグ・ワン」の面々、ゲイレン・アーソやソウ・ゲレラ、そしてダース・ベイダーの追撃に命を落とすことになった人々など、帝国軍に抗った者たちの存在があったことが、映画『ローグ・ワン』で表現された。本シリーズの舞台となるのは、「ヤヴィンの戦い」の5年前、アンドーがジン・アーソと出会う前の物語が描かれていく。

 物語の開始時点では、アンドーは増長を続ける銀河帝国を嫌いながらも、まだ帝国との戦いに積極的に身を投じているというわけではないようだ。それよりも、帝国軍の物品を盗み出したり、行方の知れない自分の妹の痕跡を探すことに尽力している。しかしある夜、彼は自分の身を危険にさらすヘマをしてしまう。帝国軍に協力する企業「プリオックス=モーラーナ」によって統治されている星「モーラーナ1」の企業区域(コーポレート・ゾーン)で、企業の保安職員に絡まれたことから、彼らを殺害してしまうのである。

キャシアン・アンドー

 これまでの『スター・ウォーズ』の世界では、人の死は軽く扱われてきたところがあるが、本シリーズでは、このたった一つに過ぎない事件がきっかけとなり、企業の保安部隊の捜索から、アンドーは逃げなければならないはめになる。しかし彼はハン・ソロのように、にやけながら敵を次々と撃ち倒し、銀河を駆け回るようなことが飄々とできそうなタイプではない。この点が、特別な力を持っているわけではないアンドーのキャラクターとしてのスケールの小ささを感じさせるところである。これは、『スター・ウォーズ』の世界を、われわれの側にぐっと近づける描き方だ。

 もちろんそれは、これまでのような豪快で明快な楽しさがある『スター・ウォーズ』の魅力を、一部放棄する試みであることはたしかだろう。しかし、このリアリティある世界のなかでこそ、表現できるものがあるのも、たしかなことだ。

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