『邦キチ! 映子さん』から学ぶコンテンツ受容のスタンス 自分の“好き”を見失わないために
大好きなはずの趣味活動において、疲れを感じてしまうときはないだろうか。コンテンツと情報がとめどなく溢れる今、共感を集めるギャグ漫画が、服部昇大作『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』(以下、『邦キチ!』)だ。
舞台は、ある高校の「映画について語る若人の部」。その名のとおり、好きな映画を語りあう部活だが、部員は2人だけ。両者の映画の好みも異なる。部長である小谷洋一は『アイアンマン』が原点の洋画好き。本人は映画マニアのつもりだが、そこまで詳しいわけではないと作中でたびたび指摘されている。邦キチこと邦吉映子の場合、大の邦画狂い。第1話では宮﨑駿ではないほうの2014年版『魔女の宅急便』を紹介するなど、いわゆる実写化作品を特に好んでいる。さらに、同作のプレゼンにおいて「キキを張り倒すトンボのシーン」をフェイバリットに挙げるなど、着眼点もトリッキーだ。
部長から『スタンド・バイ・ミー』の話を振られた邦キチが『STAND BY ME ドラえもん』のことだと思って返す……そんなすれ違いが生じたりもする。しかし、部活のモットーは「あなたの好きを肯定する部」。映画愛を語りあい、おもに部長が邦キチにふりまわされてツッコミを入れる日々がつづいている。
さまざまな映画の魅力を知ることができる『邦キチ!』だが、見どころはそこだけではない。映画ファンとしてのジャンル論、さらには受容のスタンス面でも、共感と議論を呼びつづけているのだ。たとえば、実写映画は、原作に忠実すぎても乗り気になりづらい気持ち。福田雄一監督作品は笑いのノリが「リア充グループ」風、韓国映画は面白いけど観るのに気合が必要……等々。Web連載であることもはたらき、更新されるたび、SNSで映画議論が花ひらくサイクルが形成されている。
前半シーズン、もっとも会話を喚起した主張はこれだろう。
「コンテンツに追われてるんだよ 若者は!!」
(服部昇大『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』単行本3巻)
言葉の主である部長曰く『ゴジラ』や『HiGH&LOW』シリーズは、作品数が多すぎて入り口がわからない。さらに、リバイバル映画が多い近年、つねに過去作を追わなければいけなくなっている若年映画ファンは、非常に忙しい……MCUを筆頭としたIP映画、さらにはTVシリーズが量産されている今日らしい訴えだ。
Season7(単行本7巻)に入ると、映画ファンのスタンスにまつわる「確変」的キャラクターが登場する。映画好き大学生、池ちゃんだ。ライター志望の彼は、年間鑑賞本数にこだわったり、「常識」「マスト」などの同調圧力的な表現を多用して映画を語るなど、上滑りな「物凄くウザい」人物。同時に、自分の映画のレビューがつまらないことについて悩んでもいる。
部長と邦キチの自由な感想に感銘を受ける展開となるが、前述の邦キチフェイバリット、実写版『魔女の宅急便』を未見の理由を問われると「見る意味がさぁ…ないじゃん…!?」と戸惑ってしまう。彼は、部長と同じ「コンテンツに追われてる」若者だ。それのみならず、映画ファンコミュニティの話題作を見逃して「太い『流れ』」に「置いてかれる」恐怖におびえている。そして、自問自答しだす。
「流れに乗れていなかったらマズいような気がして オレはひたすら話題の先っぽを追い続けてるだけなのかもしれない……」
(服部昇大『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』単行本7巻)
共感してしまう読者も少なくないだろう。部長もインターネットの評判を気にするタチだが、部活を立ち上げるだけあり、純粋に映画に熱中している。一方、作者の服部氏いわく、池ちゃんは「自分が何を好きか」を失ってしまっている人間だ。