『竜とそばかすの姫』が描く新たな『美女と野獣』 重なる“ベル”と2人の物語の違いとは?

細田守『竜そば』が描く新たな『美女と野獣』

すずにとっての「アンベイル」の意味

 『美女と野獣』のベルといえば、読書が好きで街の人からは「空想ばかり」と揶揄される一面も。野獣に「入るな」と言われていた部屋に興味から踏み込んでしまうなど、かなり行動的なヒロインのイメージを抱く人もいるかもしれない。

 しかしそんな他人の声を厭わずに自分の道を進む『美女と野獣』のベルと対比するかのように、すずの性格は受け身で思考もネガティヴ。密かに憧れを抱く幼なじみ・しのぶに対しても、人の目を気にして、本当に言いたいことは言えない。

 すずの変化は、仮想世界<U(ユー)>でベルとして歌い始めたことをきっかけに現れ始める。クライマックスでは竜の信用を得るために、アンベイルによってすずは自ら本来の姿を<U(ユー)>に晒す。

 考えようによっては、わざわざアンベイルせずとも多大なる影響力を持ったベルのままで何か他に竜のためにできることがあったのでは? とも思えるシーンではあるが、すずとしてベルの歌を歌ったことには大きな意味がある。アンベイルによって、すずは過去の自分を本当の意味で脱し、自らの弱さに打ち勝つのだ。劇中歌「はなればなれの君へ」の透明感あふれる真っ直ぐな歌声に涙ぐみながら、能動的なヒロインになるための儀式のようなワンシーンにただひたすらに見入ってしまった。

 『美女と野獣』はそもそも、呪いを解いて素顔に戻りたいという願望が野獣の行動原理にある。しかし、『竜そば』は素顔を晒すことで野獣の本当の“呪い”を解くきっかけを掴むという点で、新しい「美女と野獣」の物語であるといえるだろう。

 絢爛豪華なホールでのダンスシーンをはじめ、薔薇のモチーフやベルが身を隠すローブまで観れば観るほど 『美女と野獣』にリンクする『竜そば』だが、ただ“似ている”の1点で済ませてしまうにはあまりにももったいない。2人のベルの物語をどう重ねて視聴するかという点も、『竜そば』の一つの楽しみ方だ。

参照

※. https://kelly-net.jp/enjoytoday/2021081705503146676.html

■放送情報
『竜とそばかすの姫』
日本テレビ系にて、9月23日(金)21:00~23:24放送
※放送枠30分拡大・本編ノーカット
声の出演:中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、役所広司、佐藤健
原作・脚本・監督:細田守
企画・制作:スタジオ地図
音楽監督:岩崎太整
音楽:岩崎太整、Ludvig Forssell、坂東祐大
©︎2021 スタジオ地図

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