『マッドマックス』や『ファーゴ』を彷彿とさせるスリラーアクション『ザ・ツーリスト』

批評家絶賛も納得の『ザ・ツーリスト』

 日本で『ザ・ツーリスト 俺は誰だ?』(Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」にて配信中)について書いたり語ったりする際、まず確認しておくべきはジェイミー・ドーナンの認知度、人気度の内外格差だろう。北アイルランド出身、人気ファッションモデルだったジェイミー・ドーナンが映画界で名を上げたのは、ミステリアスな若き大富豪クリスチャン・グレイ役を演じた2015年の『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』だった。当時32歳のジェイミー・ドーナンは同作で遅咲きのブレイクを果たすと、『フィフティ・シェイズ・ダーカー』(2017年)、『フィフティ・シェイズ・フリード』(2018年)でも続けてグレイ役を演じ、ちょっと危険でセクシーなマスキュリニティを象徴するスター俳優としてのポジションを確立。映画のフランチャイズとしては世界的に少々尻すぼみに終わってしまった同シリーズだったが、そもそも原作の社会現象化も映画第1作の大ヒットも、ここ日本にはほとんど波及しなかった(2010年代以降そういう事態は珍しいことではなくなった)。日本の映画ファンの中にはケネス・ブラナーの『ベルファスト』(2021年)で大きな役(主人公の父)を当てがわれているのを見て、「この役者、誰?」と思った人も少なくなかったのではないか。

 そうしたジェイミー・ドーナンのパブリックイメージを共有していないと、この頬までビッシリ髭を生やしていかにも男性ホルモン過多の記憶喪失の主人公が、行く先々で女性キャラクターたちの甲斐甲斐しいバックアップを受けながら、次から次へと押し寄せてくる危機を回避していく様子に感情移入しきれないかもしれない。『ザ・ツーリスト 俺は誰だ?』という作品の看板を背負っているのは間違いなくジェイミー・ドーナンその人であり、その存在感の大きさはジョージ・ミラー監督『マッドマックス』シリーズにおけるメル・ギブソンのようなものと言っていいだろう。

 『マッドマックス』の名前を出したのは他でもない。『ザ・ツーリスト 俺は誰だ?』は英国のプロダクション主導で製作された作品だが、主なロケーションはオーストラリアのアウトバック。そのシチュエーションですべてを失った(本作の場合は記憶だが)男が車を走らせていれば、『マッドマックス』のことを思い浮かべるのも無理はないだろう。さらに映画的記憶を喚起させるという点では、冒頭の展開はスティーヴン・スピルバーグ監督『激突!』(1971年)、中盤の展開はアメリカの片田舎を舞台にしたコーエン兄弟の『ファーゴ』(1996年)や『ノーカントリー』(2007年)あたりを連想させるシーンも散りばめられている。

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