田中圭と池田エライザが抱えた“喪失”と“希望” ペットの概念を考え直す映画『ハウ』
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、愛猫と暮らす鈴木が『ハウ』をプッシュします。
『ハウ』
婚約者にフラれ人生最悪な時を迎えていた赤西民夫(田中圭)が出会うのは、「ワン」と鳴けず「ハウ」と鳴く犬・ハウ(ベック)。民夫にとって、恋人を突然失った喪失に温かく寄り添う存在だったハウもまた、突然いなくなってしまう。ハウの行方を探す中で、見つからない悲しみを抱えながらも、心の葛藤を乗り越え、少しずつ希望を見出していく民夫。そして、さまざまなライフステージで悩みを抱える登場人物たちが、ハウと出会うひとときの中で、心の葛藤と向き合っていく。
失恋の傷は、恋愛でしか補えないと思いがちだが、そうではない。少し話が変わるが、虐待などの不適切な養育を受けた子どもは、一般の同年代の子どもに比べて、遺伝子の一部が変化してしまう。(※1)簡単にいうと、著しい愛情不足により、DNAが変化するのだ。しかし、これには可逆性がある。(※2)他者から愛情を受けることにより、また変化するのである。
愛情はなにも親子や恋愛関係に限ったことではない。動物や友人といった信頼関係から生まれる愛情も、同じかそれ以上のものである。現代では、“推し”や好きなものへの自分発信の愛情も、同等の作用があるのではないかと思う。「自分のことを大切にできない人は他者も大切にできない」と聞くが、私は、他者への愛情を感じるからこそ、自分を愛することができるのではないかと考えている。本作はそんな温かい感情を思い起こす時間をくれた。