圧力を乗り越えた『時代革命』が突きつける“自由”の重さ いま知るべき香港の真実が映る

『時代革命』が突きつける“自由”の重さ

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、沢木耕太郎の『深夜特急』を読んで香港に憧れを持っていた間瀬が、『時代革命』をプッシュします。

『時代革命』

 本作のタイトルを見て、何の話なのかピンとくる人とこない人がいるだろう。この言葉は2019年に起こった香港の民主化を求める大規模デモで叫ばれたスローガンだ。中国当局の締め付けによって自由が奪われていく香港で、10代の子どもたちから年配者までがデモに参加した。参加した人数は、約700万人の人口の香港で200万人にのぼると言われており、香港の全人口の7分の2にあたる。そのデモの参加者が合言葉のように叫んでいたのが「光復香港、時代革命(意:香港を取り戻せ、時代の革命だ)」のフレーズだ。日本を含む世界各国で報道がされていたので、注意深く動向を追っていた人は見覚えがあるのではないだろうか。

 ちなみにいまの香港では、インターネットで「時代革命」と検索しただけで逮捕される場合があるらしい。(※1)これは2020年に施行された国安法による影響だ。そんなフレーズがタイトルとなった本作は香港警察、ひいては中国当局にとって非常に不都合があるだろうことは容易に想像できる。実際に本作は地元香港での上映は行えず、カンヌ国際映画祭や東京フィルメックスなどでも上映直前まで作品名・内容共に伏せられ、サプライズの形で上映された経緯がある。

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 2時間38分にも及ぶ本作は章立ての構成をとっており、全編を通してデモの全容や要素の変遷、デモ参加者の実際の生活などが浮かび上がるようになっている。1章ではデモに活動家と呼ばれる人だけではなく、“普通の暮らし”をしていた人たちが参加するまでの経緯が描かれるのだが、これがとても興味深かった。思い返せば日本でデモをしている人たちを見かけた時、大多数の人はその参加者のことを「特別な人たち」だと思うのではないだろうか。正直自分はそう思ってしまうことが多い。そしてこの感覚はおそらく香港の人たちも最初はそうだったはずで、それでも日々抑圧が強まる社会の中で過ごしていると“普通の人たち”が少しずつ“目覚めて”いき、徐々に非日常が日常に変わっていくのだろう。こうしたデモ活動が権力者に対抗する大きな力を持つことに希望のようなものを感じつつ、平凡な日常の地続きの先に本作で描かれたようなディストピアが待っている可能性があることを突きつけられ、身の引き締まるような思いだ。

 そしてデモ隊は大きな力となるが、実際には香港警察、中国当局の抑圧に対して改善に向かう具体的な有効打(五大要求の承認など)には辿り着けなかった。もちろん市民の意志が統一されたことは一定の成果と言えるだろうが、主義思想がぶつかったときに持つ力の差があるとどういうことが起こるのか、香港の事例を通して本作が痛みを伴って映し出している。

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