苦悩するムロツヨシから学ぶ、あるべき社会の姿 『雨に消えた向日葵』の切実なメッセージ
どんなに些細な情報でもいい。平和な日常と事件の隔たりが紙一重であるように、難航する事件の解決はほんの小さなSOSを察知できるかどうかの差なのだから。何気ない情報から、一気に事件が進展することもある。そして、その奇跡を待ち続けている人が、あの立て看板の向こう側にいるのだ。そうした人たちがいるのだと頭の片隅に入れて生活すること、何食わぬ顔で潜む身勝手な悪を許さないと思い続けることが、誰にもできる協力なのだと知る。
もちろん真由子の事件から、たとえ被害者が逮捕されて一般的に言う「事件解決」となったとしても、被害者やその家族は元の状態に戻ることはないと奈良は知っている。そして、加害者が罰を受けて「罪を償った」と言われても、止まってしまった時計は動くことはないのだ。それでも、目の前の人を助けることで何かが動き始めるかもしれない。その一縷の望みこそが、奈良が刑事を続けている理由に思えるし、生きる意味になっているようにも感じた。
そんな奈良というシリアスな役柄を、コメディ役者として人気のムロツヨシが演じているところにも感慨深いものがある。多くの人を笑わせてきたムロツヨシが、コミカルな演技を封印して苦悩する日々を過ごす姿を見せる。そのギャップのある演技だけでも、心から笑える状況がどれほど尊いものかを、言葉で語りかけるよりもずっと重く伝えてくれるようだ。
番組公式サイトのスペシャルインタビュー(※)でも触れられているように、ムロツヨシがそのスイッチを入れるために、共演者たちが協力してくれたという。その裏話からも一人ひとりの意識が真剣に動く人の背中を押すのだという教訓のようなものを感じ取ることができた。世の中捨てたものじゃない、自分が思う以上に味方になってくれる人はいる。そう思える社会が、傷ついた人たちにとって、次の一歩を踏み出したい人たちにとって、どれほど大きな励みとなるか。そして、その一端を私たち一人ひとりの意識が担っているということに改めて気づかされる作品だ。
参考
※https://www.wowow.co.jp/drama/original/himawari/
■放送情報
『連続ドラマW 雨に消えた向日葵』(全5話)
WOWOWプライム、WOWOW 4K、WOWOWオンデマンドにて、放送・配信中
※第1話無料放送
出演:ムロツヨシ、平岩紙、今野浩喜、遊井亮子、堀部圭亮、中越典子、佐藤隆太/阪田マサノブ、加治将樹、坂田聡、小松利昌、米倉れいあ、大島美優、沢井美優、梅沢昌代
原作:吉川英梨『雨に消えた向日葵』(幻冬舎文庫)
脚本:関えり香
監督:土方政人、岩田和行
プロデューサー:徳田雄久、高丸雅隆
製作:WOWOW、共同テレビ
番組公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/himawari/
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