恋愛と食欲をカラフルに描く 『ワンナイト・モーニング』一夜に詰まった“幸福な切なさ”

『ワンナイト・モーニング』の幸福な切なさ

 そしてまた、人物描写の巧みさが本作の「切なさ」のカギともいえる。各々が独立したエピソードの中で登場する男女に対して読者が愛着を抱けなければ、「幸せになってほしい」という願望も持たないだろうし、冷めた目線で傍観してしまうことだろう。だが本作においては様々な事情や痛みを抱えた男女が親しみやすく描かれることで、他人事ではあるが「好き」「応援したい」と素直に思える。その結果、約束されたほろ苦い結末を目にしてもなお「とはいえ、各々の生活はこの先も続いていく。切ないがこれでいいのだ」という余韻につながっていく。

 なし崩し的に一夜を共にした男女が、朝ごはん中に本音がぽろぽろとこぼれ出す、といったようなエピソードも見られ、「心を開く」点に重きが置かれているのも本作の注視すべき点。たとえ別々の道を行くにしても、孤独な男女が「自分はもう独りではない」と思えたり「この一夜の思い出があるから生きていける」と感じられたら、それは当事者的にはハッピーエンドなのではないか。こうした設定×演出の相互作用が、つい見入ってしまう“幸福な切なさ”の正体といえるかもしれない。

 その哀切さをよりドラマティックに味付けし、“エモさ”を増幅させたのが『WOWOWオリジナルドラマ ワンナイト・モーニング』(全8話)だ。『恋する寄生虫』でスタイリッシュな映像世界を構築した柿本ケンサク監督が手掛けた本作は、男女の逢瀬に伴う生々しさを描写的には抑えつつ、甘酸っぱさやピュアな感情の方向性にシフト。

 若い世代や映像派の視聴者が陶酔したくなるようなトリッキーな映像やカラフルな色調でもってドリーミーな一夜を演出し、原作が持つ「心」の部分――他者とほんの一時でも繋がり、重なることで得られる安らぎと切なさに注力していく。脚本を東京に暮らす若者たちの苦悩をエモーショナルに切り取った群像劇『スパゲティコード・ラブ』の蛭田直美が手掛けている点も注目ポイントといえ、各登場人物の内面の揺らぎや本音がしっかりと宿ったセリフが沁みる。

 出演陣も若手注目株でまとめられており、第1話の上杉柊平と芋生悠をはじめとする面々のフレッシュさが、画面に爽快感とピュアさをもたらしている点も秀逸。各々の演技はもちろんのこと、ルックとしての“青さ”も利用しており、作品に軽やかさを付加させている。つまりは、徹頭徹尾「観やすさ」への工夫が行き届いているのだ。

 男女の一夜×朝ごはんを青年誌、映像視聴者というターゲットに向けてそれぞれの作家性を駆使して描いた漫画&ドラマ『ワンナイト・モーニング』。日常生活に根差し、男女の秘め事も描くアダルトな切なさが魅力の原作漫画、それらを映像のフォーマットに変換&最適化し、根本にある純粋無垢な「他者を求める切実な欲」を抽出してエモさと華やかさを追求したドラマ版。原作漫画×ドラマとふたつの形態の“味変”を楽しんでいただきたい。

■放送・配信情報
『WOWOWオリジナルドラマ ワンナイト・モーニング』(全8話・オムニバス)
WOWOWにて、8月5日(金)スタート
【放送:WOWOWプライム】毎週金曜23:00[第一話無料放送]
【配信:WOWOWオンデマンド】第1話~第4話まで配信中[無料トライアル実施中]
(第5話~第8話は9月2日(金)第5話放送終了後、一挙配信予定)
出演:上杉柊平、芋生悠、望月歩、伊藤万理華、栁俊太郎、浅川梨奈、河合優実、藤原樹(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE)、前田旺志郎、池田朱那、川島海荷、水沢林太郎、石橋菜津美、水間ロン、青木柚、筧美和子ほか
原作:奥山ケニチ『ワンナイト・モーニング』(少年画報社刊) 
脚本:蛭田直美
監督・撮影:柿本ケンサク
音楽:愛印
製作:WOWOW、ダブル・フィールド
(c)WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/onenight/ 
公式Instagram:instagram.com/onenight_morning_wowow/

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