『鎌倉殿の13人』金子大地が見せる頼家の感情のゆらぎ “泰時”の誕生など盛りだくさんの回に
『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第29回「ままならぬ玉」。御家人たちのバランスが崩れ始め、北条義時(小栗旬)は北条と比企との争いの激化を懸念する。つつじ(北香那)が源頼家(金子大地)の次男・善哉を出産するも、比企能員(佐藤二朗)は長男・一幡こそが嫡男であるとけん制する。一方、北条時政(坂東彌十郎)とりく(宮沢りえ)は政子(小池栄子)の次男・千幡を頼家の跡継ぎにするために策を巡らす。
父・頼朝(大泉洋)は決して人を信じることをしなかった。一方、家同士の争いに辟易としている頼家もまた、人を信じようとはしない。しかし頼朝と違い、頼家は人を信じたくとも信じられないといった様子だ。頼家は、能員を筆頭に何人かの御家人たちが、口では「頼家のために」と言いながら己の家のことばかり考えていることを察している。それゆえ頼家は、本心から「頼家のため」を思う御家人もいるのだが、誰の言葉も聞き入れようとしない。父のように人を信じないことを選んだ頼家の眼差しは、冷たくも悲しい。
物語冒頭、頼家は乳母夫と支援しようとする能員を遠ざけようとしたが、押し切られる。このとき頼家は、能員の言葉を受けて何かを言いかけながらも、失望したような目つきで口を閉ざす。だが、梶原景時(中村獅童)、三浦義澄(佐藤B作)、安達盛長(野添義弘)が鬼籍に入り、当初の勢いを失った宿老たちの評議に現れた頼家は、能員に向かって冷酷な目つきで「これからは好きにやらせてもらう」と言い放った。
誰も信じられない心境にある頼家は、鎌倉殿の役目の重さとも闘っている。「上に立つ者の証し」として母・政子(小池栄子)から受け取った髑髏を頼家がじっと見つめる場面がある。頼家は鎌倉殿としてどうすればよいのか思い悩んでいたのかもしれないが、当然ながら髑髏は何も答えてはくれない。頼家は望みを欠いたような顔つきでその場を立ち去った。
その後、頼時(坂口健太郎)が行った、不作に苦しむ百姓たちへの裁定は、本来ならば自分がなすべきことだと頼家は分かっていたに違いない。だが、頼家は蹴鞠に興じることしかできなかった。頼家の苛立ちや無力感が、頼時に褒美という名の当て付けを行う表情や台詞回しに表れている。頼時に対して「伊豆では大層な評判と聞いておるぞ」と口にした頼家だが、後方にいる頼時を見る頼家の表情と物言いは不愉快だと言わんばかりだった。頼時は「泰時」と名を改められる。頼時の頼は頼朝の頼でもあり、頼時にとっては不本意だが、誉れとせざるを得ない。そのうえ頼家は「お前はうるさい。父のもとで励め、泰時」と頼時をはねつけた。頼家は一切瞬きをせず、淡々と頼時を拒絶した。頼時の誠実さや周囲からの評価に対して頼家は羨望を抱いているのだろう。そのことが、頼家と頼時の溝を深くしていく。
冷たくも悲しい眼差しで御家人たちと向かい合ってきた頼家だが、側女のせつ(山谷花純)の言葉が頼家の「人を信じたい」心を動かす。せつは比企一族の娘だが、跡継ぎは一幡でも善哉でもどちらでもよいと考えている。それよりも、頼家と向き合い、心を通わせることを願っていた。
「嫡男は善哉様で結構。私はただ、あなた様とお話がしたいのです。私と一幡をおそばに置いてほしいのです」
せつもまた「頼家のため」を思う。せつの「鎌倉殿をお支えしとうございます」という言葉は、さまざまな思惑を腹に秘めた御家人たちが言う「頼家のため」とは違う。せつは頼家を一途に慕う胸の内をまっすぐ投げかけた。そんなせつを前にした頼家は、そっけない態度ではあるのだが、せつを見つめる表情からは、どことなく、せつを信じたいという気持ちが滲み出していた。