NY地下で暮らす親子がなぜ映画に? 監督コンビが目の当たりした「家がない」という感覚
「状況の厳しさをしっかりと伝えたい」
――おっしゃる通り、この母娘がキャラクター化しておらず「生活を垣間見る」ようなリアリスティックな演出が素晴らしかったです。そこに付随して、「汚し」の演出と手持ちカメラのこだわりについて教えてください。どちらも、本作に生々しさを付加していました。
ジョージ:とにかくロマンティックな形にしない、というのが約束事でした。もちろん観客の皆さんにはこの母娘を応援してほしいけれど、この状況の厳しさをしっかりと伝えたいと考えていました。それもあって、娘であるリトルの視点で描いています。地下トンネルの中で育った彼女は、世界のことを理解できていない。そのリトルが何を見るか、という構造にしました。リトルにとってトンネル内の生活は居心地がいいけれど、私たちには未知の世界。その逆に、私たちが居心地のいい地上の世界はリトルにとっては未知。最初、リトルの生活を観た私たちは「え? この世界は何?」と混乱するけど、母娘が地上に出た瞬間にそれが逆転するのです。そういった構造にすることで、観客との関係性や距離感をキープできるのではないかと考えました。
ヘルド:私とローガンは日本で演劇を教えていたことがあるのですが、その際に学生たちと作った短編以外はすべて撮影監督のローウェル・A・マイヤーと組んできました。彼のカメラワークはとにかく安定しているので、編集でカットする必要がないんです。
ジョージ:かつ、エモーショナルな撮り方をしてくれるんです。今回は、カメラワークもキャラクターの一人として扱い、起きている事象や演技に対して自然にリアクションするような撮影をしたかったので、事前に「こう撮る」と計画はしませんでした。実は、リトル役のザイラ・ファーマーとは知り合ってすぐ撮影に入るつもりが、資金調達に時間がかかってしまい約1年撮影が遅れてしまったんです。その1年の間に、彼女の喋り方や言葉の選び方を脚本に取り入れ、セリフを覚えなくていいように変更しました。それも生々しさにつながっているかもしれませんね。あと、プロダクションデザイン(美術)においては、実際の地下トンネルに寄せています。ゴヤの「マドリード、1808年5月3日」が壁に描かれているシーンがありますが、あれも実際に合ったものを模倣しています。また、リサーチの中でホームレスの方にとって持ち物が非常に大事だということを知りました。「何を持つか」がその人自身を示す重要な要素なので、慎重に選んでいきましたね。たとえばニッキーのコートです。彼女にとって非常に大切なものだからこそ、地下生活の中でもあまり汚れていないという設定を施しました。
ヘルド:ニッキーを演じるうえで、一定期間髪を洗わずに過ごしました。トンネルで生活をしているとなかなか水は使えないし、使えたとしても常に娘を優先しているから、という考えからです。
――おふたりは『モダンラブ ~今日もNYの街角で~』や『サーヴァント ターナー家の子守』に携わり、本作ではジョン・カーニーやチャーリー・カウフマンと組んだプロデューサー、アンソニー・ブレグマンとタッグを組みました。そして次回作は、M・ナイト・シャマラン監督プロデュースの『The Vanishings at Caddo Lake(原題)』です。
ジョージ:我々は二人組なので、「どうしたらうまくいくのか?」をディスカッションするのはごく自然なプロセスなんです。そのため、自分たちと真逆の意見を持つ人たちは大歓迎です(笑)。最高の作品にしたいという想いがあったうえでの新しいアイデアであれば、どんどんほしいし、積極的にコラボレーションしていきたいですね。『きっと地上には満天の星』は後半、スリラー的なハイテンポに変化していきますが、制作中の『The Vanishings at Caddo Lake』は全編がスリラー。こうしたスリラーの作品は、シャマラン監督から学んだように思います。ただその中で、今回も手持ちカメラを用いて即興的に作っているんです。トリック的な要素を入れつつライブ感を交えて作るのは非常に難しいのですが、やりがいがありますね。ちょうどいまポストプロダクションが大詰めなので、来年には公開できそうです。楽しみにしていてください!
■公開情報
『きっと地上には満天の星』
8月5日(金)公開
監督・脚本:セリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージ
出演:ザイラ・ファーマー、セリーヌ・ヘルド、ファットリップ、ジャレッド・アブラハムソン
配給:フルモテルモ/オープンセサミ
2020年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/カラー/5.1ch/90分/原題:Topside/日本語字幕:福永詩乃
(c)2020Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.
公式サイト:https://littles-wings.com/