NY地下で暮らす親子がなぜ映画に? 監督コンビが目の当たりした「家がない」という感覚

『きっと地上には満天の星』監督が語る

 ニューヨークの地下に、様々な事情を抱えた人々が暮らすコミュニティがあった――。実在したコミュニティを題材にした母娘の壮絶なドラマを描く『きっと地上には満天の星』が、8月5日に劇場公開を迎える。

 光の届かないニューヨークの地下空間で暮らすニッキー(セリーヌ・ヘルド)と、外の世界を知らない5歳の娘リトル(ザイラ・ファーマー)。身を寄せ合って生きていた母娘だったが、不法居住者を排除しようとする市の職員たちに追われ、地上へと逃亡。頼るもののない母娘は、安息の場所を見つけることができるのか……。

 出演も兼ねたセリーヌ・ヘルドとローガン・ジョージ監督コンビに話を聞いた。

きっかけは、“住所がない”児童との出会い

――本作にも引用されているノンフィクション「モグラびと:ニューヨーク地下生活者たち」にはどのようにして出合ったのでしょう?

セリーヌ・ヘルド(以下、ヘルド):ニューヨークの書店で店員さんに勧められたことがきっかけです。地下生活者たちを題材にした代表的な作品ですが、「地下生活者を創造的に描きすぎている」と物議を呼んでいる側面もあります。私たちはよりリアリスティックなテイストを目指していたので、この書籍から受けた影響は、冒頭の引用部分くらいですね。もともと、ニューヨークでは「広大な地下トンネルと地下生活者」が都市伝説的にささやかれていました。そのうちのひとつが「フリーダム・トンネル」です。

――おふたりは、実際に地下トンネルの調査も行ったそうですね。

ローガン・ジョージ(以下、ジョージ):大学卒業後に廃墟巡りにハマっていた時期がありました。地下トンネルは消えゆく場所ですから、「いま観ておかないとなくなってしまう!」という想いで回っていましたね。中には、工場のようなターミナルの跡地がそのまま残っているとても美しい場所もありました。セントラルパークの地下にも地下生活者のコミュニティが存在したといううわさがあるのですが、まだ行ったことはありません。

ヘルド:数年前に工事でなくなってしまったのですが、ブルックリンには「バットケイブ(※バットマンの秘密基地)」と呼ばれている場所があります。あとは、タイのバンコクで観た廃墟も印象的でした。67階建てくらいの廃ビルなのですが、中で小麦が育てられているんです。

ジョージ:僕たちは今回、ロケーションを中心に据える撮影方式をとりました。小さなストーリーであっても、ロケーションの力で大きな物語に見せることができるから。地下トンネルは非常に映画的なロケーションですし、観客の多くが目にしたことがないものでしょうから、驚かせられるとも考えていました。

――本作は制作時から約2年経って日本公開を迎えますが、非常に“いま感”といいますか、時事性を感じました。貧富の格差がさらに広がり、国や地域によらず困窮する人々が増加していくなか、海の向こうの他人事とは思えない近さがあります。

ジョージ:僕たちがこの映画で伝えたかったもののひとつは、「家がない」という感覚。自分が落ち着けたり逃げ込める場所がない不安や未知なるものに対する恐怖心を体験してほしいと思って作っています。

ヘルド:本作では、ニッキーのバックグラウンドをあえて描いていません。それは、人物の情報を描き込みすぎることで観客の皆さんに「私はこういう状況には陥らない」と思ってほしくないから。不明な部分があることで、彼女の周囲の環境に対する不信感や不安が引き立ち、リトルとの関係にも浸透していくのです。いま仰っていただいたように貧困層は世界的に増え続けていて、ニューヨークのホームレスの子どもの数は10万人も及びます。リサーチの段階でその現状を目の当たりにし、本当につらかったです。アメリカでも様々な団体や機関が助けようとしているのですが、歯車がうまくかみ合っていない印象です。というのも、貧困層に認定するラインがあって、それを超えてしまうと助成が得られないから。そのことが逆に、助成が得られる範囲にとどまり続ける状況を生み出してもいるのです。私自身もかつて幼稚園で働いていた際、児童のひとりが児童保護サービスに連れていかれてしまう経験をしました。後から知ったのは、その児童の親は雇用を求めて一生懸命活動していたのですが、住所がなかったということ。アメリカでは、子どもが学校に通うには住所が必要なんです。その経験が、『きっと地上には満天の星』を作る直接的なきっかけとなりました。「ホームレス」というとどうしても大人の男性のイメージがあるかと思いますが、地下鉄のホームに座っている子どもがそうかもしれないと感じたんです。映画を観て下さった方には、作品をきっかけに「自分の隣にいる人がそうかもしれない」という視点を持っていただけたらと思います。

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