『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』にみる、製作陣の思い入れと西部劇への敬意
本作を通して製作陣が敬意を表した、西部劇というジャンル
本作の面白いところは、そういったキャラクターアークだけでなく、舞台が1885年の荒野であることだ。先述の通り、ゼメキスもゲイルもイーストウッドの大ファンで、彼らは西部劇を観て育った世代。そんな彼らや、ともに仕事をするカメラマンたちスタッフ、クルーにとって「映画制作」と「西部劇」は何とも力強い結びつきを感じるものなのだ。
なんといったって、『BTTF3』の前半でマーティが1885年に向かうシーンの撮影地はかのモニュメントバレー。本作でもオマージュがうかがえる『駅馬車』を初め、数多くの作品のロケ地として使われているので有名な場所だ。このときのことを「ジョン・フォードやジョン・ウェインの足跡を辿るような感覚だった」と、ゲイルはメイキングにて語っている。
ちなみにゼメキスは、この後アカデミー賞を受賞した『フォレスト・ガンプ/一期一会』でも国道163号線をガンプが走る場面をモニュメントバレーで撮影している。いわば、この世代のフィルムメイカーにとって一種の“聖地”なのだ。そこから、マーティはドライブインシアターのスクリーンに向かって、デロリアンを走らせる。この一連のシーンが象徴するのは、“西部劇過渡期のハリウッドへのタイムスリップ”である。あの頃と同じように、サルーンなどのセットのディテールを再現したり、よりアナログでありながら工夫を求められる撮影をしたりと、携わった映画人の張り切りが垣間見えるのだ。
余談ではあるが、実際、本作の開始30分頃、最初にマーティがビュフォード・タネン(ビフ・タネンの曽祖父)に追われるシーンで、彼が街を歩く女性にぶつかるカットの左端に、マーティと並行して全速力で走るカメラマンとカメラが見切れている。こういう“映っちゃってる”感じにも、制作時の熱量というか、彼らの「撮ってるぞ〜!」という気合を感じるというか、これを編集でこのままにしたことも愛着を感じて好きだ。
スタッフの気合の入り方は、セット全体にも反映されている。ユニバーサル・スタジオにも西部劇のセットはある(筆者もツアーで参加したときに見たが、ちょうどクエンティン・タランティーノが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で使用していたセットがあった)。しかし、本作のようなスケールの撮影になると、少し違う場所にカメラを向ければ違うセットが見切れてしまうため、彼らは街全体を荒野に作り上げたのだ。なにより、そうすることで車などの騒音もなく、静かに撮影をすることができた。主演のフォックスも、撮影の支度がないオフの時間には魚釣りをして過ごしていたとメイキングで語っており、かなりリラックスできる環境だったらしい。
セットといえば、本作において最も重要な存在となる蒸気機関車についても面白い裏話がある。あの蒸気機関車はカリフォルニア州ジェームズ・タウンに存在するもので、セットの作られたソノーラの隣町にあった。というより、彼らは事前にローカルでまだ動いている蒸気機関車がないか調べていたので、そこにあることを知っていたのだ。なぜなら、実は本当ならこの蒸気機関車は第1作目に登場する予定だったから。
マーティが時計台の広場で1955年のビフたちに車で追い回されるシークエンスで、最終的にビフたちは肥料トラックに突っ込む。しかし、当初のストーリーボードではトラックの代わりに線路をまたいでマーティが通過した直後、ビフの車を遮るようにこの蒸気機関車が通過する、というプロットだったのだ。これが予算の都合で肥料トラックに変更されたのだが、あの“お決まり”を生み出したことを考えると素晴らしい変更だと思う。そしてクルーは第3作目のロケ地をすでに確保していたとも言えるのだ。
蒸気機関車を使った撮影を振り返って、メイキングでゼメキスは以下のように話している。
「撮影中に、なぜフィルムメイカーが列車のシーンを撮影するのが好きかわかったよ。なぜなら、列車の素晴らしいところは線路の上にあるからだ。だからアクションでの緊張感やサスペンスを高めるそのシーンにおいて、唯一監督が観客に説明しなくていいのは『その列車がどこに向かっていくのか』ということだ。列車は線路の上をただ前にまっすぐ走るだけだから」
カーアクションを例にすると、車の場合は右に曲がったり左に曲がったり、後ろに走ったりと街の地形に合わせて様々な動きを必要とされる。そのため、車内にしろ車上にしろ、同時に戦闘などのアクションシーンが展開されたとしても、車がまっすぐ進むだけなら「いや、建物にぶつからない?」というふうになり、そこに整合性がなければ気が散ってアクションに集中することができない。制作側としては、そこの筋を通してちゃんと説明しなければならないので余計な手間がかかる。ということで、ただまっすぐ走り続けていても何の疑問も持たない列車シーンが愛されるわけだと、ゼメキスは語っているのだ。こういう点も含めて、本作は映画制作や撮影においてフィルムメイカーの視点で愛すべきものをいくつも扱っている。
だから、『BTTF3』という映画そのものは「西部劇映画」ではなく、あくまで映画人による「あの頃の西部劇を振り返る映画」なのだ。それを表すかのように、マーティが自身を「クリント・イーストウッド」と名乗ったり、『荒野の用心棒』のオマージュシーンが出てきたりする。
それだけでなく、サルーンでポーカーをする老人3人組にハリー・ケリー・ジュニア、ダブ・テイラー、パット・バトラムを、酒場のバーテンダー役にマット・クラーク、機関車の機関士役にビル・マッキニーと、往年の西部劇映画で活躍していた俳優陣を起用している。そういった、“あの頃”への敬意を込めた作品なのだ。
20世紀前半のアメリカ映画の興隆を象徴するこのジャンルに立ち帰ることで、映画人は未来のフィルムメイキングを学ぶ。それが、マーティとドクの旅路「バック・トゥ・ザ・フューチャー(未来へ帰る)」に重なるのであった。
■放送情報
『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』
フジテレビ系にて、7月16日(土)21:00~23:10放送
監督・原案:ロバート・ゼメキス
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ
出演:マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、メアリー・スティーンバージェン、 リー・トンプソン、トーマス・F・ウィルソン
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