中村倫也主演『狐晴明九尾狩』のゲキ×シネ公開を通して考える 舞台を映画で表現する魅力

ゲキ×シネ、舞台を映画で表現する魅力

 舞台を映像化する最大のメリットは、クローズアップによって俳優の繊細な表情や細かな仕草が見られること。劇場の遠い席からでは役者の表情を見ることは難しい。オペラグラスを使って表情を追い続ければ舞台全体の動きを把握することはできない。どうしてもどこかに死角が発生してしまうのだ。複数人の役者が舞台のあちらこちらで同時に進行していく物語のすべてを完璧に捉えることは容易なことではない。特定の役者に気を取られている間に重要な場面を見落としているかもしれないし、もしかしたら見落としにすら気がついていないかもしれない。

 「ゲキ×シネ」では作り手がここを見せたいという厳選シーンが約2時間弱にわたって続いていく。迫力あるカットの連続が生み出す濃度は、劇場で感じられる臨場感を補ってあまりあるものだ。「演劇は劇場で見るもの」という先入観はささっと捨ててしまった方が新たな演劇の可能性を楽しむことができそうだ。加えて、劇場の席からは見られないようなアングルや映像の切り取り方も可能。本作で言えば、安倍晴明と九尾の妖狐の2ショットで対立関係を際立たせ、緊迫感を高めていたところも秀逸だった。

 クローズアップにより複雑な心の機微が伝わるので、より役に感情移入することもできる。例えば、タオの弟の狐霊・ランフーリン(早乙女友貴)が落ち込んだときに両耳が垂れるという細かな技も劇場では気が付かなかったが、おバカだけど憎めないランのかわいらしさが強調されていて心を掴まれた。

 『狐晴明九尾狩』は平安時代の宮廷が舞台なので、衣装がきらびやか。舞台でもその華やかさには目を惹かれたが、映像では柄など細部までしっかりと確認することができ、役の個性を鮮明にしていた。“YAZAWA”をイメージして役作りをしたという野武士集団の棟梁・虹川悪兵太(竜星涼)のマントの内側には「成り上がり」という刺繍がされていて、芸の細かさに思わず笑ってしまった。

 圧巻なのはダンスと殺陣シーン。冒頭の中村倫也のダンスは妖艶でかっこよく、一気に物語の世界に引き込む。劇団☆新感線作品の見どころでもある殺陣は、映像ならではのスローモーションを用い、アップ、引き、ローアングル、右から左からと目まぐるしくカットを切り替えることで、キレがあって踊るように美しい仕上がりになっている。この殺陣を観るだけでも、映画館に足を運ぶ価値は十分にある。本作は今秋にBlu-rayの販売が予定されているが、スピード感あふれる殺陣はぜひとも映画館の大スクリーンで体感してほしい。

■公開情報
『狐晴明九尾狩』
3週間限定公開中
出演:中村倫也、吉岡里帆、浅利陽介、竜星涼、早乙女友貴、千葉哲也、高田聖子、粟根まこと、向井理ほか
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
配給:ヴィレッヂ/ティ・ジョイ
著作: ヴィレッヂ/劇団☆新感線
(c)ヴィレッヂ・劇団☆新感線
公式サイト:http://www.geki-cine.jp/sp/kyubi/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる