『鎌倉殿の13人』はこれまでの大河と何が違うのか 小栗旬演じる義時の“覚醒”が近づく
資料の少なさを逆手に取る作劇
それこそ平安末期から鎌倉時代の歴史的資料はその後の時代に比べると少ないのだが、三谷はそこを逆手に取って、史実に巧みに物語を乗せる。作中で義時の最初の妻となった八重(新垣結衣)もその存在は謎に包まれているし、義仲亡き後の巴御前(秋元才加)が和田義盛(横田栄司)のもとに身を寄せ、幸福に暮らしている描写も諸説のひとつを膨らませたものだ。
中でももっとも魅せてくれたのはやはり義経の「死」の描き方だろう。史実として多く残るのは奥州で自身の命運が尽きたことを悟り、正妻と子どもとを殺害したのちに自害という説だが、本作で義経の死の瞬間は映像で描かれないし、伝聞でも一切語られない。頼朝のもとに届けられたあの首桶の中にあったのは本当に義経本人の首なのだろうか。もしかして彼は誰もが感嘆する頭脳を使ってまんまと奥州から逃げ延び、伝説の通り大陸に向かったのではないか。そんな想像までついしてしまう見事な「物語」であった。
頼朝の最期、そして義時の完全なる覚醒
さて、劇中ではそろそろその時が近づいている。ここまで歴史の太陽として存在した頼朝の最期である。思えばこれまで頼朝が命を奪った内側の者たちは、その直前、全員穏やかに未来を語っていた。広常は頼朝が平氏を討った後の鎌倉の様子を拙い字で綴っていたし、義経は農業をしながら鎌倉攻めの絵面を書いた。範頼は次に植える作物の話をしている時に善児(梶原善)に命を取られる。味方や身内の希望を絶って頂点に立った頼朝の死を三谷幸喜はどう描くのか。
そして、これまで月として太陽の光を受けてきた義時がどうやって次の鎌倉殿をも焼き殺す存在になっていくのか。三浦義村(山本耕史)が義時に言った「お前、だんだん頼朝に似てきたな」との言葉が甦る。北条に頼朝の刃が向かないよう、曽我兄弟(田邊和也、田中俊介)の謀反を仇討ちにすり替えた義時が二代目執権としてどう完璧な覚醒を遂げるのだろう。
三谷幸喜が凄まじいのは、この血で血を洗う歴史劇をただドロドロとしたものとして描かないことだ。“勝者の悲劇”を笑いのエッセンスでくるみながら歴史のコマを進めていく。45分弱の中に悲劇と喜劇が混在している、かたときも目が離せない。
謀殺のバトンがもうじき頼朝から義時の手に渡る。その時私たちは父や姉に振り回されて屋敷中を走り回ったり、無視され続けてもウーバーイーツのように八重のもとに食べ物や花を運び続けたあの明るい小四郎の笑顔を思い出すことができるだろうか。
■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK