『神は見返りを求める』のジャンルレスな衝撃 吉田恵輔監督の毒の裏にある優しさを探る

『神は見返りを求める』のジャンルレスな衝撃

 田母神もゆりちゃんもともに、他者からの承認や関係性を得られず、「欠落」によって繋がり、だからこそゆりちゃんの成功によってその共依存・双方向的な関係は一度終わる。しかし、物語の根幹に繋がるため詳細は省略するが、憎みあうことでその関係性にはまた新たな変化が生まれてくる。2人以外の人間から見たら狂気とも取れる2人の行動は、彼らにとっての純粋なコミュニケーションでもあるのだ。残酷なまでに登場人物を追い詰めることによって逆説的に、人間の奥底にある愛を描く……というのはこれまでも吉田監督が得意としてきた手法であるが、彼のフィルモグラフィーの中でもよりポップに成功しているように感じられる。

 そのポップさ=身近さの所以にはもちろん役者陣の演技もある。吉田監督はこれまでも、『麦子さんと』の堀北真希、『ヒメアノ~ル』の森田剛、『空白』の松坂桃李など役者のパブリックイメージをを逆手に取り、新たなポテンシャルを作品ごとに引き出してきた。本作においてもムロツヨシの『ジョーカー』のホアキン・フェニックスを彷彿とさせるような狂気の演技は、お茶の間に浸透した笑える「ムロツヨシ性」を塗り替えるものだし、岸井ゆきのの後半への変化の演技も良かったが、個人的には若葉竜也の、口の軽い後輩役がベストアクトだった。

 見返りを求めて行動をする、という仮言命法から逃れた先にどんな景色が広がるのか。数字や、分かりやすい正しさばかりが重視されがちな昨今において、吉田監督が本作に込めた毒は、観客にとっては薬にもなるのではないだろうか。

※吉田恵輔の「吉」は「つちよし」が正式表記。

■公開情報
『神は見返りを求める』
TOHOシネマズ 日比谷、渋谷シネクイントほかにて公開中
監督・脚本:吉田恵輔
出演:ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村界人、淡梨、柳俊太郎
主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」
挿入歌:空白ごっこ「かみさま」(ポニーキャニオン)
音楽:佐藤望
配給:パルコ
制作プロダクション:ダブ
(c)2022「神は見返りを求める」製作委員会
公式サイト:kami-mikaeri.com
公式Twitter:@kamimikaeri

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