『ミズ・マーベル』に感じたボリウッドリスペクト 背景にはディズニーの市場戦略が?

『ミズ・マーベル』ボリウッド意識の背景

 「ミズ・マーベル」ことカマラ・カーンがコミックに初登場したのは2013年。まだ比較的新しいキャラクターである。このキャラクターの誕生には、マーベルのコンテンツ&キャラクター開発を担当するサナ・アマナットの人生が反映されている。

 アマナットはニュージャージーの白人ばかりの町で、イスラム教徒の家族の中に育ったことや、自分の肌の色にコンプレックスがあり、アメリカの中で疎外感を感じながら、絵を描いては空想にふける日々を過ごしていたというのも、まさにカマラ・カーンそのもの。

 2004年にインドを舞台としたコミック『スパイダーマン:インディア』が発表されたが、主人公はヒンディー教らしき描写がありながらも、明確には描かれていなかった。しかし、本作の場合は礼拝でお祈りをする場面など、明確な宗教描写がされている。

 これはライターとして参加したG・ウィロー・ウィルソンが、宗教を研究する歴史研究者でもあり、没頭するがあまり、自身もイスラム教徒に改宗したという異例の経歴の持ち主だからだ。ざっくりとした設定ではなく、イスラム教徒という設定が詳細に取り込まれた背景には、彼女の存在がかなり大きいといえるだろう。ちなみに彼女もアマナットと同様にニュージャージーの出身である。

 2001年に起きたアメリカ同時多発テロによって、イスラム教徒への差別と偏見が強くなった。イスラム教徒というだけで、肌が茶色というだけで暴力を振るわれる事件もたびたび発生していた。この時期の悲惨さは、『グアンタナモ、僕達が見た真実』(2006年)や『マイネーム・イズ・ハーン』(2010年)、2021年に公開された『モーリタニアン 黒塗りの記録』でも描かれており、とてもヒーローとして描ける空気感ではなかった。

 そんな中でマーベル初のイスラム教徒のヒーロー「ミズ・マーベル」は誕生した。どこにでもいるような普通の女の子が活躍することで、アメリカにおけるイスラム教徒への差別と偏見を緩和し、イスラム教徒に限らず、同じようなマイノリティの人々に勇気を与えた功績というのは計り知れず、当時オバマ大統領によってアマナットがホワイトハウスに招かれたというのも納得できる。

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