『未来への10カウント』で木村拓哉がコーチ役を通して辿り着く“Next Destination”とは
桐沢祥吾を通して、木村拓哉の経験を伝える
『木村拓哉という生き方』の著者であり、社会学者の太田省一氏は、リアルサウンドのインタビュー(参考:木村拓哉はなぜプレーヤーであり続ける? 社会学者 太田省一氏が解説する“本質的な魅力”)で「役になりきるのではなく、演技をするときに必ずそこに自分を入れる。木村さんのドラマを楽しむ重要なポイントです」と語っていた。
「何をやってもキムタク」と言われるのはそれゆえなのだが、今作で演じている桐沢祥吾にも木村自身の素の部分が多分に織り交ぜられている。
第2話にこんなシーンがある。2カ月でインターハイ予選に出場したいと部員たちに訴えられ、「甲斐ボクシングジム」を経営している高校時代からの親友・甲斐誠一郎(安田顕)に相談する場面だ。
「あいつらめちゃめちゃ本気なんだよ。でも2カ月間で試合に出られるわけねえじゃん」と弱音を吐く桐沢に、「それはずっと勝ってきたやつの考え方だな。とにかくリングに上がりたいんだよ。チャレンジしたいんだ、偉いじゃないか」と甲斐が返す。
「勝ってきたやつ」とは高校時代に4冠を達成した桐沢のことだが、木村自身のことも暗に示しているのではないか。
このシーンの後、桐沢は誰もいなくなった夜のボクシング場に一人残り、黙々とサンドバッグ打ちをする。18年というブランクがあるため、ほどなく肩で息を始めるが、それでも「上がれ、上がれ、上がれ」と自らを鼓舞しながら練習を続ける。天才型の桐沢も、涼しい顔の木村拓哉も、見えない努力を積み重ねてきたのだろうと想起させる名シーンだった。
こうした“現役時代”の経験を、木村はコーチという役を演じながら、若手俳優に惜しみなく伝えていることを楽しんでいるように見える。『教場』は原作があるため、風間公親という役に木村拓哉を入れる幅は限られていたが、オリジナル作品である『未来への10カウント』ではその自由度は大きい。つまり木村自身として伝えられることが多いということだ。ボクシング部員一人一人とスパーリングをして、「自分で、勝手に限界作るな」と鼓舞した第6話はネットでも話題となったが、視聴者だけでなく、パンチの重みを直接受け止めた者だけに伝わるものがあったはずだ。
第7話では、中学の頃からボクシングを続けてきた西条桃介(村上虹郎)に悲劇が襲い掛かった。脳に動脈瘤があり、破裂すると脳出血を引き起こす可能性があるため、医師からボクシングを続けることは難しいと告げられたのだ。
かつて網膜剥離で突然ボクシングを奪われた桐沢が、同じ苦境に立たされた西条をいかに導くのか。この作品のクライマックスであると同時に、次世代を育成するという木村の新たな役割への真価が問われる。木村と福田の名コンビがどんなパンチを繰り出すのか期待せずにはいられない。
■放送情報
『未来への10カウント』
テレビ朝日系にて、毎週木曜21:00~21:54放送
出演:木村拓哉、満島ひかり、安田顕、高橋海人(King & Prince)、山田杏奈、馬場徹、オラキオ、坂東龍汰、佐久本宝、吉柳咲良、櫻井海音、阿久津仁愛、大朏岳優、山口まゆ、三浦りょう太、富樫慧士、村上虹郎、八嶋智人、滝沢カレン、川原瑛都、市毛良枝、富田靖子、内田有紀、生瀬勝久、柄本明
※三浦りょう太の「りょう」はけものへんに寮のかんむりなし。
脚本:福田靖
演出:河合勇人、星野和成
ゼネラルプロデューサー:横地郁英
チーフプロデューサー:黒田徹也
プロデューサー:川島誠史、都築歩、菊池誠、岡美鶴
音楽:林ゆうき
主題歌:B’z
制作協力:アズバーズ
制作著作:テレビ朝日
(c)テレビ朝日