巨匠A・コンチャロフスキー、最新作『親愛なる同志たちへ』、そしてウクライナ侵攻を語る
インタビューを行うにあたって避けられない質問がある。これを訊かなければ、読者から私が怒られてしまうだろう。このたびのロシア軍によるウクライナ侵攻の件である。監督は西欧やアメリカとも関係の深い活動をしてきた人物。現在の国内における立場はどのようになっているのか。
「私は10年前に『The Battle for Ukraine(英題)』(2012年)というドキュメンタリーを手がけました。ウクライナが2つの文明間の軋轢の舞台となってきた、そして再び舞台となりうるのか、ということについて考察した作品です。2つの文明とはひとつはラテン文明、つまりカトリック的な思想を持った文明です。もうひとつが古代ギリシャからつながる正教会的な思想を持った文明です。過去8世紀にわたってこの2つの文明はずっと衝突し続けています。そのはざまで板挟みになっているのが、ウクライナ、ポーランド、ブルガリアといった地域です。つまりこの軋轢、衝突は昔からあるものであり、このことはさまざまな芸術作品の中で指摘され、描写されてきました。現在ロシアとウクライナのあいだで起きていることはこの2国間というより、アングロサクソン的な哲学とロシアの東方的な哲学の衝突であり、ウクライナの地域がそのトリガーになっていると考えるべきでしょう。この軋轢は今回起きていることよりもはるかに国際的に大きなものなのではないでしょうか。ただしウクライナがこうした諍いのなかで苦しんでいることは非常に悲しむべきことであり、思いやりの気持ちを持ちたいと思います」(アンドレイ・コンチャロフスキー)
彼自身、ロシア映画界ばかりでなく、先述のとおり西欧、アメリカとも密接につながりながら活動してきたため、リスキーな立場に置かれているはずだ。実弟のニキータ・ミハルコフ監督が、プーチンのウクライナ侵攻に賛意を示したという理由で西側から猛批判を浴び、ウクライナ当局からは領土保全侵害罪に問われ、逮捕状も出てしまった。(※)そのような現状からかんがみれば、上記のような歴史概観的な発言で終始したことは、私たち取材側からすれば想定内とすべきだろう。
「私の立場はどうなのかと先ほど訊かれましたが、今という時代、もはや世界で誰も安全でいることはできません。世界はいま、大きな変化を経験している最中です。私たちは政治的な地震をグローバルな規模で経験しており、それは誰にも変えられるレベルのものではなく、とても大がかりなものです。第二次世界大戦終結後から続いてきたものがいま、終わりを迎えているのではないか。リベラルな思想による支配が長く続いてきましたが、それがいよいよ終わらんとしているのです」(アンドレイ・コンチャロフスキー)
参照
■公開情報
『親愛なる同志たちへ』
全国公開中
監督・脚本:アンドレイ・コンチャロフスキー
出演:ユリア・ビソツカヤ、ウラジスラフ・コマロフ、アンドレイ・グセフ
配給:アルバトロス・フィルム
2020年/ロシア/ロシア語/121分/モノクロ/スタンダード/5.1ch
(c)Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020
公式サイト:shinai-doshi.com