『吉祥寺ルーザーズ』ではシットコムに挑戦 秋元康が大人数ドラマを得意とする理由とは?

 秋元は常にリスナーや観客の視線に立つスタイルを保ち、こうなったら面白いという思いを具現化する人だ。以前、婦人公論のインタビューで「100人いたら100通りのスターを作れる」と、その人の持ち味をいかに引き出すかが大事だと語っていた。例えば前田をセンターにした理由として、「グループで唯一『センターは絶対に嫌と言っていた』前田が、逆にセンターになって、経験を積んで堂々たるアイドルになっていくストーリーを見てみたいと思ったから」と述べている。それは元乃木坂46の生駒里奈や、元欅坂46の平手友梨奈にも同じことが言えるだろう。決して0から1の人物像を作るのではなく、元からある個性を「こうなったら面白い」とドラマティックな方向へ導くように広げ、ファンの期待を遥かに上回ることでカリスマ化させていく。そうしたキャラクターの広げ方が、大所帯のドラマでの人物設定で上手く活かされているのだ。

日曜ドラマ「真犯人フラグ」特別編ダイジェスト

 『あな番』で言えば、他のドラマなら裏がありそうな人物を演じることの多い安藤政信が、ただワニを部屋で愛でる可愛げのある人を演じていたり、逆に可愛げしかない西野七瀬の演じたキャラがサイコパスだったり。しかし、ただイメージと反対にするだけではなく、『真犯人フラグ』で田中哲司の演じた役のように、期待通りに悪いものもある。まさに「こうなったら面白い」の絶妙な見極めが秋元は天才的で、視聴者が感情移入できる人物を作り上げる。

 秋元がこれだけ現代のドラマ界で重宝される理由を考えると、現在のドラマはほとんどが原作ものなのに対し、地上波でオリジナル作品が制作できるという強みと、「秋元康」という名前が既にブランドであることが考えられる。それにより、先の読めないミステリーや、原作と比較されない大胆な演出で、視聴者が考察し甲斐のある作品が生まれることが期待されるのだ。『あな番』がこのご時世に2クール放送できたのも、秋元でなければ企画が通ることも難しかったと思う。そして蓋を開けてみれば、ドラマが視聴者に定着して広がり、SNS上では様々な考察が激論された。それはキャラクターの個性や背景が一人歩きし、ファンが新たな流れを作ったことを意味する。結果的に視聴者巻き込み型のドラマになったことは、ファンがアイドルグループのイメージやコンセプトを構築し推していく現象と似ていて、長期ドラマでも視聴率がうなぎ登りになった要因だと思う。『あな番』が成功したことで、ドラマ制作者としての秋元が再評価されるきっかけとなった。秋元はドラマ制作に置いて、監督や脚本をやることはほとんどなく、企画・原作・原案に徹底している。それこそ、1クールに3本ものドラマを抱えられる秘訣かもしれない。基本は思いつきから始まることが多いと語っているが、「こうなったら面白い」と提案し、あとは脚本家や監督が肉付けしていくスタンスも、アイドルプロデュースで身につけた錬金術だろう。

 4月から放送の『吉祥寺ルーザーズ』は、人生の負け組6人がひとつ屋根の下シェアハウスで一緒に暮らす日々を描いたシチュエーションコメディドラマだが、秋元のアイドルグループの面白さの一つに、“ルーザー(負け犬)”が這い上がっていく面白さがある。AKB48で言えば総選挙があることで、1位を逃したメンバーが高みへと登り、日向坂46はもともと欅坂46のアンダーのようなグループだったものの、下克上のように這い上がっていくドラマが人気になった要因の一つだと考える。ダサい子がファッションブランド立ち上げに奮闘する『DASADA』(日本テレビ)や、声優学校を描いた『声春っ!』(日本テレビ)など、まさにルーザーたちの物語だったように思う。そうしたルーザーたちの人間模様を実際に作り出していた秋元だけに、今作もアイドルプロデュースのノウハウが生かされた面白いドラマになるはずだ。

■放送情報
ドラマプレミア23『吉祥寺ルーザーズ』
テレビ東京系にて、4月スタート 毎週月曜23:06〜23:55放送
Paravi、ひかりTVにて、地上波放送終了後配信
出演:増田貴久、田中みな実、片桐仁、田島芽瑠、濱田マリ、國村隼
企画・原作:秋元康
監督:佐藤祐市(共同テレビ)、松木創(共同テレビ)、小林義則(共同テレビ)
脚本:池田テツヒロ
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:稲田秀樹(テレビ東京)、橋本芙美(共同テレビ)、村木美砂(共同テレビ)
制作:テレビ東京、共同テレビ
製作著作:「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kichijoji_losers/ 
公式Twitter:@tx_losers
公式Instagram:@tx_losers

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