「『湯あがりスケッチ』穂波の湯あがり日記」第7湯 「迷い込んだ道を照らす“好き”」

「穂波の湯あがり日記」第7湯

 塩谷歩波の『銭湯図解』を原案としたドラマ『湯あがりスケッチ』が2月3日よりひかりTVにて配信された。全8話で構成される本作は、毎話ごとに今も実際に営業している都内の銭湯と、それぞれのエピソードの鍵となる8人の女性が登場し、銭湯のように心温まる物語が紡がれていく。

 主人公・穂波を演じる小川紗良が、“穂波”として執筆した「穂波の湯あがり日記」が到着。各話で穂波が感じたこと、考えたことが、日記形式で綴られている。

第7湯 純文学の登場人物のような新浪(成海璃子)さん

 不思議な人と出会った。凛とした佇まいに、落ち着いた声色、ぽつりと発する言葉の中にさりげない賢さが光る。「新浪灯子」という純文学の登場人物のような名前の彼女は本が好きで、出版社に勤めているという。彼女は外界よりも心の内側に、ずっと広くて深い世界を抱えているような人だった。それらを誰にも奪われまいと守っていながら、どこか外の世界とつながりたい、しかしつながり方がわからないという葛藤もうかがえる。

 「澤井さんのイラストにはどうして人がいるんですか?」と、彼女は私に尋ねた。ずっと他人に興味が持てなかったという彼女の気持ちが、私にも少しわかる。実際初めて銭湯の絵を描いたとき、そこに人の姿はなかった。それでも思い返せば、浴槽のシミのグラデーションやタイルで滴るしずくなんかに、私は人のいた気配を映そうとしていた。人を描きたくなかったのではない、描くのが怖かったのだ。そんな私の背中を押してくれたのが、銭湯と、そこで出会った人たちだった。

 ちょっとおこがましいことを言えば、新浪さんは銭湯に出会う前の私と似ている。好きな道に進んでもどこか満たされず、むしろその「好き」が足かせになっていくもどかしさ。それでもどうにか仕事をこなそうとするうちに、自分を見失っていく虚しさ。言葉数は少なくても、そういう渦中にいる人の張りつめた空気を彼女からひしひしと感じた。そういう人に対して私にできることは少ないけれど、銭湯にできることならたくさんある。

 何かを好きな気持ちは、それゆえに自分を苦しめることもあるが、本当にだめになりそうなときにはやっぱり味方でいてくれる。私もこの銭湯で、建築や絵を描くことが好きな気持ちと出会い直し、改めて救われた。新浪さんの中にも確固たる「好き」があって、それはきっと迷い込んだ道を照らし自然と彼女を導くだろう。隣でお湯に浸かる彼女の、眉間によっていたシワが少しずつ緩むのを見ながら、その時が来るのはそう遠くないと思えた。

■放送情報
『湯あがりスケッチ』
ひかりTVにて、毎週木曜22:00〜配信【全8話】
原案:塩谷歩波『銭湯図解』
監督・脚本:中川龍太郎
出演:小川紗良、森崎ウィン、新谷ゆづみ、村上淳、伊藤万理華、安達祐実、臼田あさ美、室井滋、夏子、中田青渚、成海璃子
(c)ひかりTV
公式サイト:https://www.hikaritv.net/sp/yuagari-sketch/index.html?cid=ent_video_yuagari_sketch_of_6
公式Twitter:https://twitter.com/yuagari_sketch
特集ページ:https://realsound.jp/movie/2022/02/post-960070.html

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