世界ランキングでも1位の『未成年裁判』 社会派リーガルドラマの3つのヒット要因

『未成年裁判』3つのヒット要因

名バイプレイヤーの起用と新進俳優の抜擢

 主演のキム・ヘスに加え、韓国映画やドラマを少しでも観たことがあればおなじみの名俳優たちが出演している。少年刑事合議でシム・ウンソク判事の左陪席となるチャ・テジュ判事役は、映画『スペース・スウィーパーズ』(2021年)や、ディズニープラスで配信中のオリジナルドラマシリーズ『グリッド』(2022年)に出演するキム・ムヨル。部長判事のカン・ウォンジュンを演じるイ・ソンミンは、『ミセン -未生-』(2014年)の熱血上司役や、映画では『KCIA 南山の部長たち』(2021年)、『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』(2019年)に出演。そのカン部長判事を政界に誘う国会議員を、『梨泰院クラス』(2019年)、映画『声もなく』(2021年)のユ・ジェミョンが演じている。カン判事の後任のナ・グニ部長判事には、『パラサイト』の家政婦役、『椿の花咲く頃』(2019年)、『まぶしくて ―私たちの輝く時間―』(2019年)のイ・ジョンウン。『ロースクール』(2021年)でも民法の教授を演じていた。保護処分となった少女たちの更生施設を経営するオ・ソンジャ役は、『椿の花咲く頃』、『悪霊狩猟団:カウンターズ』(2020年)のヨム・ヘラン。未成年犯罪者の付添人弁護士役を演じたキム・ヨナは、『恋愛体質~30歳になれば大丈夫』(2019年)や『ある日~真実のベール』(2021年)に出演している。

未成年裁判
未成年裁判
未成年裁判
未成年裁判
未成年裁判
キム・ヘス(シム・ウンソク判事役)
キム・ムヨル(チャ・テジュ判事役)
イ・ソンミン(カン・ウォンジュン判事役)
イ・ジョンウン(ナ・グニ判事役)
イ・ヨン(ペク・ソンウ役)
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キム・ヘス(シム・ウンソク判事役)
キム・ムヨル(チャ・テジュ判事役)
イ・ソンミン(カン・ウォンジュン判事役)
イ・ジョンウン(ナ・グニ判事役)
イ・ヨン(ペク・ソンウ役)
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 大人たちには名バイプレイヤーを揃え、未成年犯罪者役には芸達者な若手俳優を配している。第1話、第2話で残忍な事件を起こす中学生ペク・ソンウ役は、実際には27歳の女優のイ・ヨンが演じていることも話題になった。『イカゲーム』や『今、私たちの学校は…』などでも明らかなように、Netflixオリジナル作品のキャスティングは、確かな演技力のベテラン俳優と、これからの映像界を担う若手俳優をピックアップする術に長けている。

巧みに練られた脚本・ビンジ視聴を誘う構成

 『未成年裁判』で描かれる少年犯罪は、実際に起きた事件・事故をもとに構成されている。韓国映画・ドラマには多く見られる手法で、古くはポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(2003年)、ドラマシリーズではイ・ジェフンが私的復讐を請け負う『模範タクシー』(2021年)、軍務を離れた兵士を逮捕する特殊部隊の『D.P. -脱走兵追跡官-』(2021年)も実際の事件がモチーフになっている。実在の事件を元にする利点は、判例や報道などの資料が潤沢でリサーチがしやすく、視聴者は既視感を覚えるため耳目を集めやすくなる。

 舞台となる少年刑事合議部はドラマの創作で、実際は各地方裁判所少年部の単独裁判で処分が決まる。脚本を手掛けたキム・ミンソクは「このドラマは犯罪物語にも、法廷物語にもなるが、実際に(脚本を)書くときはホームドラマだと思って書いた。少年犯の家庭、被害者の家庭、青少年事件が一つ起きれば、どれほど波紋が広がり、その中で人々が苦しむのか、その影響に集中させた」としている。(*2) 自宅で鑑賞することが前提のテレビドラマでは、ホームドラマがヒット作の鉄則となる。アメリカのドラマ史上最高作の1本と言われる『ブレイキング・バッド』(2008年〜2013年)や、先日行われた全米映画俳優組合賞でドラマ部門作品賞を受賞した『メディア王 〜華麗なる一族〜』(サクセッション)も、根本にあるのは家族の物語だ。

未成年裁判

 凶悪犯罪の低年齢化は世界共通の問題で、犯罪の裏には大人たちの無関心、貧困やアルコール・薬物依存による育児放棄、学歴社会の軋轢など様々な問題がつきまとう。全10話の中に現代社会が抱える問題を詰め込み、1話の中でも形勢が二転三転しスピーディに展開していく。さらに、起承転結のスタイルを崩し、エピソードをまたいで物語を展開させることにより、ビンジウォッチング(一気見)を促す。同じくNetflixオリジナルシリーズの『地獄が呼んでいる』のヨン・サンホ監督は、ウェブトゥーンがスクロールを促す感情操作を脚本・演出に取り入れたと言う。そのため、『地獄~』の全6話はクリフハンガーでエピソードが閉じられ、ビンジウォッチングする羽目になる。一方、『未成年裁判』はエピソードの途中で判決が下され、すぐに新しい事件が勃発する。その連続性によってエピソードとエピソードの切れ目がなくなり、結果的に一気見することになる。特に5話以降はその傾向が顕著で、時間の許す限り視聴を続けた人も多かったのではないだろうか。全話同時配信のNetflixらしい構成で、世界中を虜にする韓国ドラマが探究に探究を重ねて作られていることがわかる。

 この数年間に作られた韓国の人気ドラマは、恋愛だけでなく仕事や家族・友人関係、ミステリーやアクションなどを豊富に盛り込んだドラマが多いのだが、韓国ドラマに馴染みの薄い人にとっては、いまだに「韓国ドラマ=恋愛悲喜劇」の印象が強い。そんな中で、『未成年裁判』のような社会派作品が日本のNetflixのランキングで1位を記録し続けていることは、大きな意味を持つ。多くの人がこのようなドラマを観ている事実が可視化されると、日本で作られるオリジナル作品にも変化が現れることだろう。何しろ、データを用いた意思決定を得意とする会社なのだから。

*1. https://top10.netflix.com/tv-non-english
*2. https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2187406

■配信情報
『未成年裁判』
Netflixにて配信中
Swann Studio/Netflix

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