『カムカム』虚無蔵の言葉は私たちにも突き刺さる ひなたが三日坊主なヒロインである理由

『カムカム』胸に刺さる虚無蔵の言葉

 「日々の鍛錬」。それができている人、できていない人と対比が描かれたのが印象的だった『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第91話。虚無蔵(松重豊)がひなた(川栄李奈)に言ったその言葉は、以前彼が五十嵐(本郷奏多)に稽古中、常に伝え続けていたものである。

「どこで何をして生きようと、お前が鍛錬し、培い、身につけたものはお前のもの。決して奪われることのないもの」

 なんだか、『カムカムエヴリバディ』を象徴する金言だ。安子(上白石萌音)も、戦火から逃れ全てを失ったが、家族とともに過ごした日々と店の手伝いをした時間があったから、再びあんこを手に取り、「たちばな」として生業を復活させた。るい(深津絵里)も過去を手放し、岡山から大阪へ移り住んでも雉真家で培った品位はなくなることもなく、大阪から京都に移り住んでも、母・安子と同じように、彼女と過ごした時間で身につけたあんこの知識、扱い方があったからこそ「大月」が開店できた。

 みな、努力の人間なのだ。錠一郎(オダギリジョー)も例に漏れず、愛するトランペットを吹いて吹いて吹きまくっていた。正念場の前にも練習し、レコーディングが決まってからも鍛錬を絶やさなかった。結果として吹けなくなってしまったが、虚無蔵の言う通り、身につけたその全てや、日々培ったものは錠一郎だけのもの。決して、誰からも奪われることのないものなのである。五十嵐も、ここでは彼と同じ立場だ。だからこそ、第90話で錠一郎が彼と話す必要があった。

 そして、今話ではさらに「努力の人間」としてるいと桃太郎(青木柚)が象徴的に描かれる。るいは娘のひなたが10歳頃の時に少しのあいだ聞いていたラジオの英会話を、あれから毎朝、17年間も聞き続けてきたことを明かす。桃太郎に関しては、もう小夜ちゃん(新川優愛)関係なく、何でも記念日にして毎日ハッピーにモチベーション高めで過ごしているので、微笑ましいにもほどがある。

 ただ、彼の「〇〇記念日」は結構侮れない。結局のところ日常の些細な幸せを見つけることが得意なのであって、野球のレギュラー入りを果たすために日々文字通り鍛錬に励む彼の精神衛生上、とても良いことではないだろうか。思わず、私も今日を何かの記念日にしたくなる。

 さて、そんな中で興味深いほど「努力を怠る人間」として対比的に描かれているのが、まさかのヒロイン・ひなただ。彼女の幼少期は他のヒロインより長く、細かい描写で描かれていたが、そこでより強調づけられたのは快活な少女性だけではない。夏休みの宿題も、英会話も、結局のところ竜頭蛇尾ですぐに諦めて投げてしまっていた。それでも本人もそんな自分に対する自覚は持っているので、「侍のように一度決めたことはやり通す」という生き様に焦がれ、そうなりたいと人一倍願っていたのが歯痒くもあった。しかし、やはり第91話で描かれた英語会話教室のくだり、そしてレッスン終了後に出会った外国人観光客との満足のいかない会話を通して描かれるのは、彼女の“日々の鍛錬”の欠如や甘えのように思える。

 小夜子も、一恵(三浦透子)も、子供の頃から勉強やお茶と、やはり努力する子だった。そして大人になった今でも、ひなたはいくらだってその友達の手を借りることができたはずなのである。英会話に通うことになった時も、母・るいや小夜子に勉強の面倒を見てもらうなど自主的に復習をしようと思えばできたのだ。

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