世界が夢中になるKゾンビ 社会問題を浮き彫りにする舞台装置は高速列車や王宮から学校へ

Kゾンビ、闘いの舞台は高速列車から学校へ

のどかな山村の『感染家族』と大都会の『#生きている』

 『感染家族』は原題『奇妙な家族』の通り、高齢化が進む田舎の山村でガソリンスタンドを営むパク一家がある日、未完成ゾンビ(チョン・ガラム)を家族として受け入れたことから始まるゾンビコメディ。ゾンビなど信じられない家族にソウルから帰省した次男(キム・ナムギル)が見せるのが、映画『新感染』なのだ。やがて待ち受ける阿鼻叫喚のゾンビパニックでは、『新感染』をはじめとするゾンビ映画から学習した成果が自宅兼店舗で孤立無援となったパク一家を救う。それぞれが知恵を総動員して適材適所で力を発揮する、これぞゾンビサバイバルの基本だ。

『感染家族』(c)2019 Megabox JoongAng Plus M & Cinezoo, Oscar 10studio, all right

 一方、『地獄が呼んでいる』や『声もなく』で神がかった演技を見せるユ・アインが冴えないネットゲーマーを演じたのがNetflix『#生きている』。ゲームに夢中になっている間に外の世界が一変したオ・ジュヌは、SNSやドローンを駆使するIT大国の申し子のような主人公。対照的に、向かいのマンションのキム・ユビン(パク・シネ)はキャンプグッズを活用してアナログでサバイブする。ネットが繋がらなくなった今、あまりにも短絡的で楽観的すぎたジュヌは、生き延びるために自己変革を目指すのだ。そんな2人がマンションの自室から一歩も外に出られない状況は、「本作品はフィクションです。事実との類似点は偶然にすぎません」とテロップが入るほどリアル。

 なお、Netflixシリーズ『Sweet Home -俺と世界の絶望-』では、ゾンビではないものの人間がモンスター化してしまう。逃げ場のない古びた団地内で感染が拡がり次々現れるモンスターに、以前は何の関わりもなかった住民同士が連帯して立ち向かい、ソン・ガン演じる引きこもりゲーマー・ヒョンスが「ハンビ」ならぬ半モンスターとなって人間を守るために闘う。ここには、痛みを抱えたはみ出し者しかいない。

『今、私たちの学校は…』はなぜ“学校”なのか

『今、私たちの学校は…』Netflixにて独占配信中

 人気ウェブトゥーンを実写ドラマ化し、『イカゲーム』『地獄が呼んでいる』に続いてNetflixのTV番組部門世界1位を記録した『今、私たちの学校は…』は、生徒や教職員がほぼ全員いる状態のヒョサン高校に突然ゾンビウイルスが蔓延。学校に閉じ込められた生徒たちが生き残るために力を合わせていく、友情と初恋と痛烈な社会風刺を交えた物語。

 白昼の学校という舞台装置が効果的に働き、さまざまな場所でサバイバル・アクションが繰り広げられる。教室や食堂、階段、保健室や職員室、音楽室、美術室、体育館など、密室や囲われた空間の多い学校は絶体絶命のピンチを際限なく生むため、ドラマチックかつアクロバティックな展開が尽きない。

 実際に4階建ての校舎にあたる全長100mに及ぶセットを建てただけあり、臨場感はたっぷり。長い廊下は『新感染』の車両よりも厄介で、どこかの教室に逃げ込むか、階段を上り下りするしかないが、どの教室も階段もゾンビで溢れかえっている。ようやく辿りついた屋上も、理性を持ちながらゾンビの力だけを得たニュータイプ、「ハンビ」のグィナムがいつ這い上がってくるかわからない。それでも、つかの間の休息でたき火を囲むと、つい深い話をしたくなるのは万国共通らしい。

『今、私たちの学校は…』Netflixにて独占配信中

 そもそも、この学校にゾンビウイルスが蔓延したのは壮絶ないじめ、否、“校内暴力”が発端だった。初回は目をそらしたくなるほどの暴力シーンから幕を開け、性的な動画を撮影された女子生徒もいる。学校という最も身近でありながら最も閉鎖的なコミュニティで、それをなかったことにして被害者の側に落ち度があるとしてしまう、尊厳を傷つけられても自業自得としてしまう屍のような大人たちの倫理観と、復讐心に支配された狂気が“病原”だ。生徒たちが最後までゾンビに抗い続ける姿からは、そんな大人への「私たちは何の期待もしません。私たちは自力で生き抜いてみせます」といったメッセージが浮かび上がってくる。それこそ、現代社会に対する彼らなりの“恨”ではないだろうか。

 2年にわたり続く世界的パンデミックの渦中にウイルス感染によるゾンビ作品が“大流行”するのは、やはり理由がある。

■配信情報
『今、私たちの学校は…』
Netflixにて独占配信中
監督:イ・ジェギュ、キム・ナムス
脚本:チョン・ソンイル
出演:ユン・チャンヨン、パク・ジフ、チョ・イヒョン、パク・ソロモン、ユ・インス、イ・ユミ、イム・ジェヒョク

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる