『悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-』にリアリティが生み出された背景とは?

『悪魔のいけにえ』新作が見出した光明

 ホラー、スプラッター映画の代表として、伝説的存在となっている『悪魔のいけにえ』(1974年)は、テキサス州の田舎を舞台に、若者たちが異常な連続殺人鬼に次々殺害されていく恐怖を描いた一作だった。もう公開から、約50年の歳月が経とうとしている。その間、続編や関連作が作られ、これまでに8本の『悪魔のいけにえ』映画が公開されている。Netflixでの配信となった本作『悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-』は、その9本目となる。

悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-

 オリジナルの第1作である『悪魔のいけにえ』は、人面皮(レザーフェイス)を被った男がチェーンソーのエンジンを響かせながら迫り来る展開や、朝焼けを背景にむちゃくちゃにチェーンソーを振り回す姿、その男の家に監禁され、異常な家族たちと食卓を囲まなければならない場面など、低予算だからこそのドキュメンタリー風の迫真性や、地獄のような世界を垣間見たいという、観客の興味を煽る力を持った作品となっていた。

 そこにリアリティが生み出された背景には、閉鎖的な田舎における前時代的な考え方への根源的な不安が、多くの観客のなかに存在するからだといえる。テキサス州の田舎は、まさしくそのイメージが強い土地柄だ。本作『悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-』は、『ドント・ブリーズ』シリーズのフェデ・アルバレス、ロド・サヤゲスが大枠のストーリーを担当し、その部分をしっかりと踏まえた内容になっている。

悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-

 舞台となっているのは、50年前に第1作の殺戮が行われた地域のゴーストタウンである。そこに、サラ・ヤーキン(『ハッピー・デス・デイ 2U』)、エルシー・フィッシャー(『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』)らが演じる、田舎のうち捨てられた町でビジネスを展開して自分たちの理想のコミュニティを作りたいと考える若者たちがやってくるところから、物語は始まる。

 この地方に車を走らせ、ゴーストタウンに到着する間にも、銃を堂々と携帯した男を見かけたり、高圧的な雰囲気の保安官に目をつけられたり、人種差別的な発言をする老人に出会ったりなど、彼らの前途は多難そうである。なかでも、町に「南軍旗」が掲げられているのは象徴的である。

 南北戦争で使用された南軍旗は、奴隷解放反対の象徴として、過激な人種差別団体「KKK」に利用されるなど、歴史的に差別主義者のアイテムにされてきた。だから、現在のアメリカで南軍旗を見えるところに飾ることは、それだけで有色人種への差別的な圧力の意味がある。また、陰謀論を展開するQアノンの狂信的な支持者たちが、2021年にアメリカ合衆国議会議事堂を襲撃した事件でも、この旗が盛んに振られている様子が見られた。

悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-

 このような偏見に基づく価値観は、「南部ゴシック」といわれる文学ジャンルにて、グロテスクなかたちで強調されてきた。その意味では、『悪魔のいけにえ』シリーズもまた、凄惨な連続殺人というかたちで、現代に継続されている前時代的な考え方が象徴されてきているといえよう。

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